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yumemimyou

第二章 ミセス・ロビンソン


・・・一二  隣は何をするヒトぞ・・・


 夏休みも終わりに近いある日、龍生がハウスに帰るとベンも帰っていた。
「オッ、やっと帰ってきたか、リュウちゃんもアイスコーヒー飲むか」竜人が声をかける、竜人とベンは煙草を片手にアイスコーヒーを飲んでくつろいでいた。
「お家は楽しかったかね?」竜人が尋ねる。
「親父の仕事の手伝いとか、いろいろとね、ジーンはずっとハウスにいたの?」
「そうさぁー、まあちょっとはお友達のところにも出かけたさぁ、でもほとんどハウスに居たさぁ、だって金がないから仕方ないじゃないか、そりゃあ金があれば何処にだって行きたいさ、まあ、フツウサ」何がふつうなのか、わからないが口癖である。
「竜崎、バイトの方はどうなった?」
「まだこれからだよ、今いろいろ準備をしていて、とりあえずワシはポスターのデザインをしなければならないんだ、まだ若い立候補者で、今までにないような選挙ポスターを作ってくれって頼まれているんだ。夢もなんかいいアイデアがあったら教えてくれ」
「うん、わかった」
「そういえば・・・、こないだの夜すごかったな、隣・・・」ベンがちょっと興奮気味な様子で話し始めた。
 ロビンソンとは別に、もう一軒壁を接しているアメリカ人の夫婦の家がある。やはり奥さんは日本人で旦那の方がアメリカ人といった組み合わせだ。 旦那はデザイナーで二人の子どもが居る。この子たちがとても可愛い男の子でジョンとポールと言って、何処かで聞いたことがある名前だが、 時々庭に遊びにくる。旦那の血の方が強く出たのか、アメリカ人の子供といった容姿である。ここの夫婦とはほとんど付き合いがなく、あまり話したことがないので詳しい事は分からないが、 ミセス・ロビンソンと比べると、ここの奥さんは割りと綺麗な方である。内面は知らないが、〈そんなもの比べるな!〉何処からか怒鳴られる。
「夢にも見せてやりたかったな、実家に帰っていたからな、残念だね。あれは、すごかったよな」ベンが楽しそうに話す。
「あー、あの夜のこと、あれは結構すごいんじゃないか、なかなかナマでは見られないぜ、リュウちゃん、もったいない事したな」また竜人のからかいが始まりそうだ。
「なんだよ、何があったんだ、隣で、なんだよ、じらすなよ」
「あれはもう二度と見られないかもしれないな」竜人も楽しくなってきたようだ。
「そうだよな、ちょっとあれはドキドキものだったよな、ロープだぜロープ」ベンが口を滑らせて言うと、即座に竜人が止めに入る。
「ベンソーン、チ、チ、チ、チ、いけないねぇ君は、もうすこし楽しもうぜ」竜人は舌打ちしながら人差指を振りベンに合図した。
「ロープってなんだよ、それに、もう少し楽しもうぜって言うのはどういう事だよ。じらそうなんてやめろよな。」龍生はちょっと不機嫌そうな顔をした。
「しょうがないな、教えてやるか。リュウちゃんは本気で怒るからな、冗談、冗談さ、ベンソン、話してやれよ」
「うん、うん、それじゃ話すとするかな、エーと、それじゃあ、と・・・」
「竜崎なに構えてんだよ、とっとと話せよ」
「まあまあまあ、そう焦らずに、今話すから、エー、あの日もやっぱり暑い夜だった」
「お前は講談師か?」
「口を挟まないように! エー、いつものように竜人は、夜遅くまで、煙草の煙をくゆらせアイスコーヒーを飲みながら雰囲気を作るため薄暗い部屋でボサノバの曲を聞いていた。 夏真っ盛りだ、窓を全開に開け、外からの、夜風は心地よい・・・」
 少々説明をしておこう。隣とは三メートルほどの道を隔てて隣の家がありこちらの窓とちょうど同じ位置に向かいの窓もある。窓から顔を出せば見合わせてしまうといった状態だ、 しかしお互いにカーテンやブラインドで目隠しをしているのでそういったことは日常あまりない。
「んっ、なに!」なにかを察したのか、竜人は涼しい夜風に誘われて何気なく窓の所に行った、その時である。






 
「ヤバイ! 見つかる、隠れろ」彼は思わず窓の下に身を屈めた。それはちょうど隣の窓と接した部屋が寝室だったのである。 窓にはいつもカーテンが引かれていたため今まで気がつかなかったのであるが、この暑さと深夜ということもあって窓を全開にしていたのである。そのため奥の部屋の方まで丸見えである。
「真っ最中か?」竜人は、慌てて、テーブルの横に置いてある背丈ほどのお手製の電気スタンドのスイッチを切った。隣は、窓際にベットが置いてあるらしく、時折裸の上半身や、太ももまでが見える。
「オッ、なんか、おしいな、そうだベンジャミンにも見せてあげよう、リュウちゃんは居なかったな」竜人は急いで、と言っても部屋は真っ暗である。手探りで部屋を出て、ベンの部屋に行き戸をたたく。
「ベンソン、起きてるか」
「オッ、なんだ?」ノソッとした様子で戸を開け出てきた。
「オッ、起きてたか、すごいものが見れるから、何でもいいから付いて来いよ」
「なに、すごいものって?」
「いいから、付いて来れば分かる、部屋の明かりを点けるな、気付かれるからな、あまり大きな音を立てるなよ、ソッとな、しゃべるな、息もするな」
「オイ、オイ、それじゃ死んじゃうよ」
「死んでもいい」
「良かないよ」
「シッ! 匍匐前進」
「そりゃ、やりすぎだろ」彼らはそっと部屋に入り体を低くし手探りで窓のところまでたどり着いた。
「まだだぞ、まだ頭を上げるな、私がまず偵察してからだぞ」指揮官になったつもりの竜人である。
「オウッ! 大丈夫のようだ、気付かれてはいないな、良し」
「何が良しなんだよ、いいのか頭を上げても」ベンはささやくように言った。
「慌てるな、ソッとだぞ、オッ! オッ! ベッドから立ち上がったぞ、フルチンだ」
「エッ、本当か!」ベンも慌てて覗く。
「慌てるなっちゅーに」
「バカ、お前だけ汚いぞ」
「いいから、いいから、ホラ、裸のまま旦那の方が何かしているぞ」
「オウ! オウ! なんか探しているみたいだな、おしいな、もうちょっと窓が低かったらいいのにな」
「贅沢は言わないの」二人ともささやくように話しながらも目は釘付けである。
「オッと、旦那、ロープのようなものを持ち出しました。これはまさしく反則技と言うべきではないでしょうか」興奮の裏返しとでも言ったことなのか、ベンが調子に乗ってしゃべり出す。
「なんだかスポーツ解説みたいになってきたな。勝手に言ってなさい、静かにな」
「オッと、何やら女の足にロープを巻きつけている模様であります。多分奥さんの足だと思うのでありますが、ここからでは壁に阻まれて確認することは困難であります。行雲流水、 八面六臂、孟母三遷の教え、蛙とびこむ水の音、ボチャン、わたしは何を言っているので有りましょうか」
「お前はどこかのアナウンサーか、バッカか」
「ちょっと、アブノーマルなプレイじゃないか、過激だな」ベンはちょっとワクワク気味に言った。
「足と手を縛ったのは見えたんだけれど、今度は何しているんだろうな、創造するところが多くて膨らみすぎるよな」竜人も暗がりにも関わらず目がぎらぎらと輝いている。
「オッ、尻が見えたぞ、あれは奥さんのだな、なんかロープが食い込んでいるような、ハッキリとは見えなかったけど、そうじゃないか?」
「うん、食い込んでたな、たぶん、間違いない!」
「四つん這いになってるな、何をしているのか見えないのが残念だね」
「あっ、旦那がなんか持ってるぞ、小さくて、はっきりしないな、双眼鏡があったら良かったのにな」ベンが小声で言う。
「あっ、そうだ、リュウちゃん持ってなかったかな?」
「夢が、居ないから分からないよ。それにそんなの探していたら終わっちゃうし」
「それもそうだな、オイ、あまり顔を出すな、気付かれるじゃないか」ベンがあまりにも乗り出して見ていたので注意をする竜人であった。
「知念、お前も出過ぎだぞ」
「オッ、そうか、俺もか、ヤバイ、ヤバイ」注意した本人も乗り出していたのだった。
 その後しばらく、上になったり下になったりの、ちんプレイ硬プレイ? が続いた。
「オッ、二人で裸のまま向こうの部屋に行くぞ」
「風呂場のほうに行ったな、多分二人でシャワーを浴びながらの、ナニだな」と思わせぶりな言いまわしをする竜人。
「ナニって何だよ?」
「そんなのわからんさ、自分で考えなさい、勝手に」
 しばらくして汗を流しサッパリといった雰囲気の二人が裸のまま冷蔵庫の前に来て飲み物を取り出し、おいしそうに飲んだ。
「こっちもなんだかノドが乾いてきたな、それにちょっと興奮して、気付いてみれば汗だくだし」竜人は手探りでいすの上のタオルを取り汗を拭いた。
「あっ、そうだ、まだアイスコーヒーが残っていたっけな、生温いな、まっ、いいか」
「あっ、ワシもなんか飲みたいな」
「君は、いいの、ちゃんと見ていれば、なんかあったら教えなさい」竜人はちょっと休憩といった感じで煙草を吸いながら一休みである。
「なんだよ、きっみぃー、一人で煙草まで吸って、ワシなんか汗で尻までビッショリだよ」
「そんなに気持ち悪いなら着替えてくれば、でもその間にすごいの見逃しちゃうかもね」
「あっ、そんな事言ってる場合じゃないぞ、こっちの部屋に来るぞ。ヌード丸見えだよ」
夏の夜長汗だくになりながら、やる側も、覗く側も、共にがんばったのであった。
「といった事だったんだけれどさ、夢、残念だったよな、居なくて」
「また、見るチャンスがあるかもな。そうガッカリしないでさ、期待して待っていれば、でも、すごかったよな、あれは」竜人はちょっと、からかい半分に言う。
「言うな、話だけ聞いても面白くないよ、残念! くそ!」


一三 三日寝たろうにつづく

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