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第二章 ミセス・ロビンソン


・・・一三  三日寝たろう・・・


 「リュウ、ベンを見たか」
外も暗くなりお腹もすいてきたころ、そろそろ食事かなといった感じで、龍生が部屋から出てきたところへ竜人も出てきた。
ハウスでは、たいがい何人か居ると、夕飯はいっしょに作って食べることが多いのである。役割分担はだいたい決まっている。料理を作る人は竜人がおもでベンもたまにやる。   
買出しはみんなで、足りない分のお金は龍生が出しておくことが多い。別にお金持というわけではないが、無駄使いをあまりしないので、いつも小銭に余裕があるということだ。
「竜崎、そういえば、三日ほど前にバイトから帰ってきて、いっしょに食事をした後疲れているから早く寝ると言って部屋に入ってから見かけてないな、まさか部屋にこもりっぱなしっていうこともあるわけないし、またバイトにでも行ったのかな」
「何も言わないで出かけるなんてベンソンにしては珍しいな」
「なんか急ぎの用事が入ったんじゃないの」
「そうだよな三日間も寝っぱなし、なんてことあるわけないし、いくらベンソン君でもな。食事作ろうか、オレンジ・スプーキーにしような」竜人は冷蔵庫から食材を取り出し料理をはじめた。その動きは手馴れたものである。
ハウスではいろいろなメニューが台所の壁に貼ってある。当然ほとんどのメニューは竜人の創作によるもので、みんなで書いたメニュー表がきれいに飾られている。それぞれのメニューも個性豊かで、オレンジ・スプーキーとはトマトをベースに、肉や野菜などいろいろな食材を大きなフライパンに入れオリーブオイルや塩、ブラックペッパー、その他シンプルなスパイスで味付けをした、とってもジューシーで、素材の味を生かしたボリューム満点の料理で、トマトがべースだけにオレンジ色をしているところから名づけられている。その他にも、ホワイト・トマホークと言うのがあり、直訳すれば白いミサイルであるが、別に深い意味があるわけではない、ただ牛乳がベースの料理である。牛乳だけにホワイトと、言うことである。まだほかにもいろいろと、あるのだが限がないので、この位にしておこう。
「リュウちゃんはご飯炊いといて」
食事の準備もそつなく終わり、テレビをつけて九時からの洋画劇場を待つ。
「ビールでも飲もうか、たしか冷蔵庫に何本か入っていたと思うよ」
「いいねえ、リュウちゃん頼むな」龍生はすぐにビールとコップを取りに行った。
「まあ まあ まあ 一杯 お疲れさん」
「どうも どうも そちらさんも一杯、ご返杯なんてね、お疲れ様でした」お互いに注ぎ合って。「まずはチンチーン」「カンパーイ」
「マイウ!」なに? お前らオヤジか。
「やっぱ、これだな」竜人は独特のアクションをつけて言った。
「そういえば、夢見達がいないとき、大変だったさ、あっ、もう話したか? この話。ゴーンだったよな、あれは」
「エッ、聞いてないよ、どんな話、なんかあったの?」
「いやっ、どーしようかな、やっぱ話すの止めよかな、あまり格好よくないしな」
「なに、じらすなよ、話しちゃえよ」
「聞きたい?」
「聞きたい! それでどう大変だったの」
「いやぁ、隣のミセス・ロビンソンがさ・・・・・ってわけでよ、もう大変なんてもんじゃ、ないわけさ」
「それ、すごいな、話を聞いただけでもゾーッとするなぁ」
「僕じゃなくて、よかったぁー」独り言。
話も盛り上がり、のんびりと食事も進み、食事の後のアイスコーヒーを飲みながら、洋画劇場を見ていた。その時である、突然、竜崎の部屋の戸が開いたのである。二人は思いもよらない事態に驚いて、戸を見つめたまま固まった。
「エッ! 誰かいたのか?」二人は、まさか誰かがいるとは微塵も思っていなかったので、度肝を抜かれた。
「今何時かなぁ? 昨日は今日、今日はあした、ワシなに言ってんだろう、寝過ぎて頭がボーっとしてるな、スッキリしないな」ノソッと現われたのは、寝ぼけ顔のベンである。
「なんだおまえ! 竜崎なに言ってんだって言うか何処にいたんだ、いつのまに帰ってたんだ?」龍生は、ビックリして言った。
「君ぃー、ビックリするじゃないか」と、竜人も身を半構えで言った。
「何処に居たって? そりゃあ、部屋で寝ていたのに決まっているだろが」
「決まっているだろがって、竜崎、おまえ、途中で起きなかったのか?」
「そう、帰ってきて、布団に入ってから、一度もさめずにぐっすり寝ていた」
「ウソだろ、だって今日は何日だか解かっているか、帰ってきた日からもう三日も経っているんだぜ、どう考えたって変ジャン」
「エッ! ウソォ」
「ウソじゃないよ」
「だって、トイレとか、どうしたのよ?」
「ぜんぜん、まったく起きなかった、あっ、ちょっと待って、トイレ」
「早く行ってこいよ」
「ベンソン君は、さっきからだいぶ長いことがんばっているみたいだな」
「なんせ、三日ぶりのナニだからねぇ」
「あー、スッキリしたぁー」
「だいぶ苦戦してたもようだが、敵はどうしたかね、ベンソン二等兵」
「無事退散いたしましたって、なにを言わせるんだ、このやろう」
「何をバカ言ってんの、あっ、映画のストーリー分からなくなっちゃったよ」
「リュウちゃん、そうガッカリするなよ、またいつか見れるさ、それより、本当か三日間も寝てたって言うのは、よくそんなに寝むれるね、体おかしくならないか? 俺なんか絶対そんなに寝むれないさぁ」
「そうだよな、そんなに寝た奴聞いたことないよ、記録的じゃないか、それって」
「大げさなこと言うなよ、ワシが異常みたいだろう」
「竜崎、お前異常じゃなかったんだ」
「あたりまえだろ、ワシを変人扱いするな」
「まあ、そんなことはどうでも、いいんじゃないか」竜人は軽くあしらう。
「よかないだろう」
「あまり、しつこいと嫌われるよ」龍生がとがめる。
「なんか腹がすいたなぁ、そう言えばなんにも食べてなかったんだ、あっ! なんか、すっごく減ってきた」
「三人そろったところで、ビールでも飲まないかベンソンは食事もすればいいじゃないか、リュウちゃん、冷蔵庫にまだビールあるか?」
「さっき飲んじゃったからもうないぞ」
「しかたないな、買って来ないといけないな、ベンソンちょっと買ってこないか?」
「エッ、なんでワシが行くの」
「君はお金出したくないだろ、ていうかあんまし、持ってないじゃないか」
「なんでおまえが知ってんだよ、まあ、実際ないんだけど、知念、おまえに言われたくないな、じゃあ、おまえ出すのか」
「ちょっと待っててくれ」と部屋に入り、戻ってきた。
「今ちょっと、これだけしか都合がつかんな、五十円、ベンソン君、チップだ取っておきたまへ」ベンの足元に投げ捨てる。
「バカにするな」
「いらんのか?」
「いる」ベンが慌てて拾う。
「君達は何をしてるの」龍生は二人のバカコントをいつも傍観しているのだ。
「五十円くらいならワシだって出せるよ」とベン。
「じゃ、みんなで買いに行くか、リュウちゃん、足りない分出しておいて、こんどいいものあげるからさ」結局三人仲良くビールを買いに家を出た。
「気持ちいいな外は、スーッ ハーッ」龍生は深呼吸をした。
「風がヒヤっとしてて、いいよな、アーァッ、夜もだいぶ遅いから人通りも無いし」
「オッ、結構使えそうなソファーが捨ててあるぞ」竜人が目ざとく見つけた。
ハウスから五十メートルくらい、行ったところの角に空家らしき家があり、その家の柵の周りに、いろいろなモノが捨ててあるのだ。ごみ捨て場なのかもしれないが、時々使えそうなモノが捨ててある。
「後で持ってかえろうな」
自動販売機でビールを買い、帰りがけにソファーを持って帰ろうとしたのだが。
「だれか来るといけないから、ここはわたしが見張ろう、二人で速やかに運びたまえ」竜人はいつもの調子で言った。
「誰かが来たっていいだろう、悪いことでもしているようなこと言うな」とベンが呆れ顔で言う。
「拾っているところなんか、見られたら恥ずかしいじゃないか」
「そうか? だって、拾っているんだからしょうがないだろ」いつものベンと竜人の会話である。
「これ重くて二人じゃ、ちょっと大変だよ、なっ、竜崎」
「おう、ビールも持っているし、いったんハウスに戻ってから、また取りに来ようか?」
「それよか、誰かがビールを持って帰って、すぐに戻って来るっていうのはどう?」龍生が提案する。
「まあ、そういう意見もあるな、じゃあリュウちゃん行ってきてくれ」仕切りや竜人。
「そう来たか、しょうがない急いで行ってくるよ」龍生は走ってビールを置きに行く。
「リュウちゃん、慌てて転んだりするな、」竜人が声をかける。
「ビールがつぶれたら大変だから」ベンが言う。
「何を心配しているんだよ、竜崎は」龍生は振り向きながら叫んだ。
「アッと! あぶない、もうちょっとで転ぶところだった」
「だから言ったじゃないか、気をつけろって」竜人が口に手をあてがって声をかける。
 しばらくして、息を切らせながら龍生が戻ってきた。
「やあ! ご苦労さん戻ってきたか、それじゃあ運ぶとするか、ベンソンそっち持って、リュウちゃん、こっちな、俺は真中を持つから」竜人は妙にすまし顔である。
「オイ、知念、ちゃんと真中で支えているのか、すごく重たいぞ」ベンは不審に思った。
「しっかりと支えているさ、いいか手を離してみようか、ホラ」
「全然変わらないぞ、やっぱ持っていなかったんだ、ちゃんと持てよ」
「冗談、冗談、じゃあ、真面目に運ぼうな」
「最初からやれよ、疲れるな」
「僕ちゃんもう疲れたよ」
「ほらみろ、夢が僕ちゃんって言い出しちゃったよ」
五十メートルの距離をなんのかんのと言いつつも、やっと三人でハウスまで運んできた。
「結構でかいぞ、これ玄関から入るかな」
龍生は、玄関の所まで行き腕を広げておおまかな寸法を測った。
「ちょっと、きついかもな」
「なんとかなるんじゃないか」竜人は楽観的意見を述べた。意外と当たっていた。
いろいろと角度を変えて、やっと玄関を通過し、プレイルームに入れることができた。
「だいぶ古いな」
「ほこりをとれば何とか使えるよ」ベンが、ためしに腰掛けてみる。
「スプリングが弱っているよ、でもまあ、気にしなければ大丈夫かな」
「どれ、いいんじゃないか」竜人も座って確かめてみる。
「まだ掃除もしていないのに座るなよ、汚いから」
「死にゃあしないから大丈夫だよ、これくらいの事で、神経質だな、リュウちゃんは」と、竜人にたしなめられる。
玄関に入って直接部屋が丸見えにならないように、目隠し用に木材でちょっとオシャレに桟を作ってある、その前にソファーを置いた。百八十センチほどあるので友達が来たときなどベッド代わりにもなる。
「ちょっと掃除をしようぜ」裏もきれいにする為、三人でソファーを裏返して汚いものを取り除き全体のほこりをぬぐった。やっと少しすっきりしたところで、龍生は座ってみた。
「まあ、なんとか使えるな」
「さあ落ち着いたところで、ビールで乾杯といくか」
「あっ、そうだ、ワシまだ飯食ってなかったんだ、腹へったぁ〜 死にそう」
「勝手に死ねば」と龍生。「それはあまりのお言葉」とベン。
「チミ達バッカか」と竜人。「お前もな」・・・。
翌日の朝。
久しぶりに三人そろい、昨夜は遅くまで音楽を聞いたり演奏したりで、今朝はみんな、のんびりである。
「んっ、もう十時か、起きなきゃ、トイレに行こ」と龍生はトイレに行った。
「ウワッ、なんだこりゃ、黒坊みたいのが顔出してるぞ、まだいたのか、ベン太郎は、昨日流したはずなのにな、しつこいな、もう一遍流したろ」昨日ベンが三日ぶりに出したものが、あまりにも巨大でなかなか流れていってくれないのである。
「また戻ってきた、なかなか帰ってくれないな、ベン太郎君は本当にしつこいな・・・ザァー・・・今度は見えないみたいだな、良しと」
「オッ、なんだ、なんかまだ居るぞ」しばらくして、今度は竜人がトイレで騒いでいる。
その声を聞いて、またかと、龍生も部屋を出て見に行った。ベンも部屋から出てきて。
「なに騒いでいるんだ」
「おまえの大きなベン太郎がな」龍生が返事をする。
「なんだよベン太郎って」
「いや、ベン之助でも、ベン之蒸でもなんでもいいんだけれど」龍生が、からかい半分に。
「なんだそりゃ」
「君ぃ―っ、まだ居るぞ、顔を覗かせて、オイ、オイって、言ってんだよな。何度流しても帰らんぞ、ベンソンなんとか帰るように言い聞かせろよ」と、竜人がトイレから出てきて。
「ちょっと言い聞かせてくる」ベンは何やら台所から持ちだしトイレに入り、しばらく格闘した後出てきて。
「完全に帰らせてきた。もう戻ってこないと思うんだけれど」
「おまえ本当、信じられないほど大きいの出すな、どんなピー穴してるんだ」〈今後表現に不適当と思われる場合、ピーという音に変換されますのでご了承ください〉
「俺なんかほんと細いピーだぜ」〈ピーピーそれ面白いか〉〈結構気に入ってる〉〈それじゃしょうがない続けるか〉
「ところでさっきからお前が持って振りまわしているその割り箸、バッチイんじゃないのか、変なものが飛んでるぞ」
「あっ、そうか、わりイ、わりイ」
「なんか、臭くないか? ベンソン、きっみーぃ!」
「なに握り締めているんだよ、早く捨てろよ、竜崎!」
「ウーッ! クソしってこよ」
「なんだよ! 竜崎はまたクソかよ」
「なんだい、まるであたしが流したみたいなことを言うじゃないか、おふざけでないよ」
ミセス・ロビンソンの怒声が裏庭より聞こえてくる。
「別にあんたがやったとは言ってないじゃないですか、ただこの下水管はお宅の方から流れてくる管だから、何か詰まるようなものを流したことはないですかと聞いただけですよ」大家さんと言い争っているようである。
「言ってることは同じじゃないか、本当にうちだけの下水が流れているのか、わかりゃあしないよ、ほかのだって流れ込んでいるのかも、しれないじゃないか」
「この下水の位置から言ってもお宅だけの下水が流れている可能性が高いと思いますがね」
「なんだいわたしを悪者にしようって、ゆうのかい、元パンパンだとでも思っているのかい、バカにするんじゃないよ」
そんなこと言ってないじゃないですか。とにかく今、水道工事屋さんに来てもらって、見てもらいますから、そうすれば詰まった原因もわかるでしょうから」
「フーン、勝手におし、うちでなく他の奴だったら、そいつをとっちめてやるからね、覚えてな、いいね」
「おい、まさかベンソンのさっきのナニがもとで詰まったんじゃないだろうな、知らないぞ、俺は」竜人がおもしろがって言った。
「あっ、そうかベン太郎くんかもしれないな原因は、なんせすごかったものな、あの大きさは、こりゃ大変だ竜崎、僕も知らない」龍生も竜人に合わせて楽しんだ。
「オイ、ちょ、ちょっとまてよ、まさか、ちがうよ絶対、だって、かなりグジャグジャにして流したんだぜ」ベンは一生懸命に否定しようとする。
「なんかすごく汚らしいものをイメージしちゃったよ、ちょっとこの話は止めようよ」龍生はちょっと気持ちが悪くなってきた。
「そうだな、冗談もこのくらいにしておこうか」
「なんだよ、冗談だったのかよ」
「でもまだわからないぜ」竜人はまだ、からかっていた。
しばらくして水道工事店の人が来た。
「はあーっ! なにか、たくさん詰まっていますね、こりゃ、たいへんだ、これじゃあ流れるわけないな」
「なにが詰まっています?」
「何だか大変そうだよ。見に行ってみようか?」龍生が言う。
「かなり詰まっているみたいだな、覚悟はいいか、ベンソン」
「バカやろう、脅かすな」
「本当にお前のベン太郎が向こうまで行って詰まったっていうことはないよな、それとも、もしかしたらミセス・ロビンソンのナニは、ベンソンのより巨大なピーなのかもな、それが詰まっているんじゃないだろうな」竜人は勝手に想像を膨らませて楽しんでいる。
「そりゃすごいな、ミセス・ロビンソンだもんな」龍生も勝手なことを言ってよろこぶ。
三人は、やじうまさながら外に見に行った。
「ちょっと待ってください、今取り出しますから、エーと、ホラ」
「何が出てくるんだ」思わず全員下水管を覗きこんだ。
「布のようですね」
「こりゃ、タオルだな、まだまだ出てくるよ、これもタオルだ」
「マジシャンみたいだな」龍生は思った。
「なんでタオルなんか流すんだろうね」
「オッ、今度はパンツみたいだな女性物だな、ほかにも何だかわからない布やヒモなどが絡んでいるな」
「たくさん出てくるな、ごみ捨て場と間違えている様だね、困るねこんなものを流されては」
「あたしじゃないよ、そんなもの流すわけがないじゃないか、疑られたりしたんじゃたまんないね、あー、知らない、知らない、あたしゃ何にも知らないよ、さあ、家に戻ろ」
ミセス・ロビンソンは、さっさと知らん振りして家に入っていった。
「困ったもんだよな」
「すごいですね」大家と水道屋がしばらくミセス・ロビンソンをネタに話しをしていた。
なにはともあれ下水が直って良かった、良かった、われわれには関係なかったかな、いや! ベン太郎くんでなくて良かった良かった。ホンと!


一四 再会につづく

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