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第一章   変貌


・・・壱  変貌そして・・・


 ある人里離れた所に今では朽ち果てた研究所らしき建築物がある。その一室に得体の知れぬ奇妙な生き物がうごめいている。それは途轍もなく我々に恐怖を抱かせる。その姿は、獣、爬虫類、魚類、昆虫、それらすべての要素を感じさせる。今までに見た事も聞いた事もない、想像を絶するものであり、それは恐ろしい意思を持ち、我々に恐怖を与える。芋虫の様に床を蠢くその姿に見入っているうちに、それはまさしく変貌してゆく人体である事を確信した。憤怒の形相を浮かべ、人間の持つ悪の恐ろしさを曝け出したかのようである。それは、しきりに自らの変貌した悪に対して逃れざる事の出来なくなってしまった自分自身に対する恐怖に戦慄き、のた打ち回っているかの様である。
 私はそのモノを見ているとき不意に思い出したのである。かつて美術学校で共に学び遊んだ友人の事を。彼は卒業後アメリカに渡り、当初留学という事で大学を受けるも入学できず、美術活動もせず、堕落した生活を送っていたが、資金も底をつき、生活に困りヤバイ仕事に手を出していた。そんな頃、ある奇妙な事件に巻き込まれ警察に逮捕された。その後出所してから、彼がどのような悪事に手を染めて行ったかは知らないが、何が彼をそう至らしめたのか、また何故彼はそのような行ないに走ってしまったのか。
「エッ! まさか!」私は、苦悩に満ちたそのモノの顔をマジマジと見つめた。
「間違いない、彼だ、窪田だ!」彼の身の上にどんな事が起こったのであろうか? それは彼自身にも理解しがたいものであったろう。
 彼自身すでに自らの意思にかかわらず、時間と空間との狭間を漂い続けているのである。まさにそれは、邪悪なるモノへと変貌していったのであった。今の彼は戻る事を失ってしまい、自らに苛まれ、より深みへと陥ってしまい、今では怪物と化してしまったのである。
 私がその怪しく青白き微光に包まれた怪物を見ていたとき、ふと私の中にそういった思いが浮かんできた。私は確信したのである。まさしくその怪物は、友人の窪田丈二なのだと。私は恐怖と哀れみを持って、そこに蠢きまわるモノを見つづけた。
 怪物は容赦なく我々に襲いかかろうとしていたのである。しかし我々は逃げ惑いながらも、その怪物の行方を追い続けていたのであった。
 どれほどの時が経ったであろう、私はその怪物のうごめく姿を見つめているうちに、悪に染まり怪物へと変貌したであろう、そのモノをこの世から抹殺する事を望んだ。次の瞬間そばにあった木切れに火をつけ怪物目掛けて投げつけた。怪物の身体に火が移り、メラメラと炎に包まれていくのであった。怪物は自らの身体が焼けていくのにどうする手立ても出来ず、ただ苦しみに、のた打ち回るだけである。
 胴から頭へと炎は移り、怪物の顔が炎に包まれたとき、私はその顔をじっと見つめていた。その顔のなんと恐ろしい、苦しみと、この世に生れて来たことのすべてを恨んでいるかのようなその表情の中に、私は初めてその怪物の以前人間であった頃の素顔を見たような気がした・・・・・・・・・。
「オイ! 夢見どうしたんだ、ボーッとして、目を開けたまま寝ているのか? 白昼夢か? おい! 夢見!」
「ハッ! 窪田、お前大丈夫か?」
「なに言ってんだ、夢見は」
「あっそうか夢だったのか。奇妙なものを見てしまったな、一体なんだったんだ、今のは?」
「ボンジュール! ムッシュ.コマン ヴー ザプレ ヴー?」
「エーッ、ボ、ボンジュール! ワタシ? ミー? じゃないや、そうだフランス語の授業だったんだ」
「ム コンプルネ ヴー?」
「エーと、プーヴェ ヴー レペテ スィルヴー プレ?」
「ウイ,ジェ コンプリ. コマン ヴー ザプレ ヴー?」
「ジュ マペル リュウセイ ユメミ.エ ビヤン アンシャンテ. イル フェ ボー ネスパ? ケル タンベラチュール フェティル? エスク ヴー ゼメ ル テニス? ジェ ヴュ ル パラン. メルスィ ボークー.」
「オイ! 夢見、お前何言ってんだよ」
「トレ ビヤン? ラヴィ ドゥヴー ザヴォワール ランコントレ.メルシィ」
「ジュヴー ザォンプリ.ビックリした、突然聞かれたから、なにがなんだか解からなかったよ」
「まあ、なんとか通じていたみたいだから良いんじゃないか、でもな、いくら名前が夢見だからって昼まっから寝ぼけるなよな」
「あーっ、ちょっと朝までいろいろあってな、寝てないんだ、ついウトウトしちゃってさ」
「もう直夏休みなんだから無理するな、有意義な夏休みにするためにも身体には気を付けようぜ、お互いにな、授業終わったらどこか店に寄ろうか」
「ああ、いいよ」授業が終わった後、二人は目白駅より歩いて八分と言ったところにある、駅前通り沿いの行き付けのスナック喫茶ひかりに行った。ここは夕方までは喫茶店でそれ以降がスナックに変わる。当然スナックに変わる前に出ていくのである。余談ではあるが、ここでアルバイトをしている青葉夕美と言う大学生のおねえさんがいる。彼女は、客に人気もあって、綺麗でやさしい、時々つまみにパンの耳のフライなどをサービスしてくれるのだ。「オウ、知念、こんな所にいたのか、フランス語の授業には出ないのか?」
「窪田、珍しいじゃないか、ひかりに来るなんて」
「ヨオ、タッちゃん、今日はカウンターじゃないのか?」
「なにね、たまにはソファーもいいんじゃないか? それよりリュウちゃんはフランス語の授業に出ているのか? 俺はあんましフランスには興味ないしさ、それにもうすぐ夏休みじゃない、御勉強って言う気分には、なれないさぁ」知念竜人、沖縄生まれの音楽好きの小柄な青年である、彼と夢見龍生とは一浪からの友人である。
「そう言えば授業中夢見がな、目を開けたまま寝ていたんだぜ、夢を見ていたらしいんだよな、白昼夢っていうやつさ」
「ふざけるなよ、僕が目をあけたまま寝る訳ないだろう、大げさなんだよ、窪田は」
「リュウちゃんは良くへんな夢を見るんだよな、今度はどんな奇妙な夢を見たの?」
「それがさ、ちょっと窪田の前じゃあ話せないような奇妙な夢なんだ」
「なんだよ、それはよ、どういう意味だよ、俺に聞かせられない夢っていうのはよ」
「かなりヤバイ夢なんだ、きっと聞いたら怒るよ、聞かないほうがいいと思うな」
「なおさら気になるな、いいから話しちまえ、怒りゃあしないから」
「それじゃあ触りだけ、エーと、あっそうだ! タッちゃんさ、もうすぐ学校が国立に引っ越すっていうの聞いた?」
「ああ、なんかそんな事言っていたな、なんでも夏休み中に学校を移してしまうらしいぞ」
「ああ、そうみたいだね」
「オイ、話をそらすな」
「それじゃあ話すけどさ、窪田がさあ、見た事も無いような恐ろしい怪物に変貌してしまうんだ」
「それだけかよ、まだなんかあるんだろ」
「まあ、いろいろと」
「それじゃあ、そのいろいろなところを話せよ」
「その部分はあまり話したくないんだ」
「なんだよ、それなら、もういいよ!」窪田は腹を立てて他の席に移った。
「ところでタッちゃんさ、学校が引っ越したらヤッパ僕等も引っ越すんだろうな」今、龍生は竜人の住んでいる池袋のアパートの隣の部屋に住んでいる。六畳の畳の部屋と三畳の台所兼用の板の間といったかなり古い二階建てのアパートである。たまたま竜人の隣の部屋の家族が引っ越したので、大家も建て直す気でいるため、貸さずに空けておくつもりであったところを、頼み込んで臨時に安い家賃で入れてもらったのである。
「そうだな池袋から国立に通うのはちょっとな、リュウちゃんは実家が八王子だから近くて良いよな」
「やっと実家から出て一人暮らしを仕出したのに、また実家から通うのもな」
「それなら俺といっしょに借りれば良いさ、共同生活ってやつさ、出来れば一戸建ての家が良いな」
「一戸建てか・・・そうだ! 立川にある米軍ハウスはどうかな、最近は一般人が借りているらしいから」
「リュウちゃんそれ良いよ、それでいこう、共同生活をしようぜ、でも二人だと金額的に大変かもな」
「そうだね、それじゃあもう一人増やそうか、誰が良いかな」
「この間竜崎と話したんだけれどもさ、あいつ結構面白いぜ」
「竜崎って背の高いヒョロヒョロッとした、がり勉メガネを掛けた奴か」
「まあそうだけど、ちょっとその言い方はどうかな、その通なんだけどさ、もう直そのヒョロヒョロのがり勉メガネ君が来るはずなんだけどな」
「あっほんと? 僕はまだ話した事無いよ、彼はあまり学校に出て来てないだろう」
「なんか新聞配達のアルバイトをしているとか、言っていたから、忙しいんじゃないか」
「ふーん、結構大変そうだな、なんか苦学生みたいだな」
「がり勉メガネの苦学生が来たみたいだぞ、ハイ! 竜崎、元気?」
「ヨウ、知念、いつもここに来ているのか?」
「まあね、一浪の頃から夢見とよく来てるのさ、有線が置いてあるから、好きな曲をリクエストできるからさ、まあ立っていないで適当に座れば、夢見は知っているよな」
「話したことは無いけど知っているよ、よろしく竜崎勉って言うんだけれど小さい時からベンって呼ばれているんだ
」「あっほんと、ぼくは夢見龍生で岸田劉生の字とは違うんだけれども、関係ないか、ハ、ハ、ハ、ハッ」龍生は頭をかきながら照れくさそうに笑った。
「まあそのくらいで、自己紹介はいいんじゃないか、それよか、さっき言っていた共同生活の話の続きをしないか」
「なに? 共同生活って、なんの話し」ベンは、共同生活という言葉に反応して乗り出してきた。
「今度、学校が国立に引っ越す話は知っているだろ」龍生は説明を始めた。
「おおっ、聞いた、聞いた、それでどうしたの」
「それで、今タッちゃんと、話していたんだけれど」
「タッちゃんって知念の事か?」
「そうだけど、それで国立の近くにっていうか立川に一戸建ての借家を共同で借りないかっていう話をしていたんだ」
「一戸建てって何よそれ、まさか一軒家を借りて住むって言う事か? そんなの無理だろう、かなり家賃が高いんじゃないのか? それに学生には貸してくれないんじゃないか?」
「それがさ、在るらしいんだよな、なっ、リュウちゃん」
「んっ、うん、ちょっと聞く所によると、立川に米軍ハウスっていうのがあって一戸建ての貸家がかなりあるって言う事だけど、今では美術系の学生や造形家が住まい兼アトリエに使っているって聞いたんだけれどもな」
「ほんと! それいいな、ワシも一緒に住みたいな」
「竜崎も計画に入るか? 竜崎ベンって言うんだったよな、それじゃあこれからはベンソンって呼ぶからな、ベンジャミンの方がいいか?」竜人はちょっと冗談ぽく聞いた。
「そうだな? ベンソンか、ベンケーシーがいいかな」竜崎も返した。
「ベンケーシーは変だよ」龍生も話に加わる。
「それじゃあ、一応、計画名を決めようかな、名付けてハウス共同生活実行計画なんてどう」竜人が提案する。
「どうでもいいけど堅いな、こう言うのは、エンジョイ・ライフ・プラン」龍生も提案する。
「なんか保険の勧誘みたいだな、計画名はどうでもいいよ、それよか具体的にどうするか決めたほうがいいんじゃないかな・・・ちなみにバス付き、部屋いっぱい一軒家を探そう計画なんてどう」
「君ぃー! ベンソンだって計画名を考えていたんじゃないか」竜人が立ち上がりベンの肩を叩きながら言った。
「二人とも冗談はそんなところでさ、実際のところ、どうする? 一度立川の不動産屋にでも探しに行かないとね」
「それじゃあリュウちゃんが実家に帰ったときにでもさ、ついでに立川に降りて探しておいてくれよ、なっ、頼むよ、後でなんかおごるからさ」
「別にいいけど、それじゃあ今度見てくるよ」
「もしも一軒家が借りられたら、いろいろな楽しい事をしような、庭があったら花をいっぱい植えてテーブルと椅子をおいて、アイスコーヒーを飲むんだよ、いいんじゃないか」竜人はもうイメージを描いている。
「部屋がいっぱいあったらそれぞれ専用の部屋を作ってさ、音楽を聴くミュージックルームとか、みんなで遊んで楽しめるプレイルームや、変な意味ではなくてね、誤解の無いように。それから鏡だらけの部屋なんていいんじゃないかな、鏡の迷路みたいでさ。いろいろと楽しみたいよな」
「鏡だらけの部屋って言うのは、ちょっと怪しくないか? いくら迷路でも。夢見は贅沢な事を考えているな、ワシなんか、そんな広い家に住めたらそれだけで十分だな、風呂でも付いていたら最高だよ」
「竜崎は夢の無いことを言うね、当然バスもシャワーだって付いているよ、たぶんトイレは洋式だと思うよ。だって米軍のハウスだったところだからさ」龍生は当然といった口調で話す。
「あまり田舎者扱いするなよ、いくら秋田生まれだからって、まあ本当に田舎者なんだけど」
「竜崎、秋田生まれなのか、秋田のどこ?」
「横手、知ってる?」
「かまくら祭りで有名なところだろ、へーえっ、そうなんだ、それじゃあスキーなんか上手なんだろうな」
「上手なんてもんじゃなくて、物心が付いたときからスキーを履いていたよ、だって学校に通うのにもスキーで行ってたんだからさ、スキーが日常なんだよ」
「ほんと、ちょっと実感沸かないけど、タッちゃんなんか沖縄だから、なおさら実感無いよな」
「実感とかそういう前に、スキーをやった事が無いさ」
「そうか沖縄でスキーは出来ないか、でもタッちゃんは、いいよな一年中夏みたいで、海が近くにあるから、いつでも泳げてうらやましいよな」
「沖縄の人間はあまり海に入って泳がんさ、俺なんか海で泳いだことなんか一度も無いさ」
「エッ! 一度も無いの?」
「まあ一度や二度はあるけどさ、こどものころにね。でも、沖縄では昔から海には魔物が住んでいるって、言い伝えがあってね、危ないから、あまり入りたがらないのさ」
「ふーん、そうなんだ、まあ、何はともあれ、一軒家が借りられたらいいよな」
「はい、これサービス」
「あっ、青葉さん、いつもすいません、いただきます」
「サンキュウ、夕美さん」
「おっ、パンの耳のフライか、うまそうだな、なんでサービスしてもらえるんだ?」
「ベンソン君、それは君ぃ、顔の違いだよ」
「なにをタッちゃん言ってんだよ、青葉さんが笑っているよ。本当はね、僕等この店が出来た頃からの常連なんだ、その頃からパンの耳のフライを良く作ってもらっていたんだ」
「へぇ、常連か」
「ところで、ちょっと聞こえたんだけれど、夢見君も知念君も近いうちに引っ越しちゃうの?」
「ええ、そうなんです。この夏、学校が国立に引っ越すので、僕らも今から貸家を探そうと思っているんです。
「国立かぁ、ちょっと遠くになってしまうね、もうこの店にも来なくなるのかな、さみしくなるね」
「そんなこと、ないさぁ、いつでも夕美さんの顔を見に来るさぁ、なっ、リュウちゃん」
「みんなで時々顔を見せに来てね、楽しみにしているからね」
「もちろん、遊びに来ます」
「こういう会話をしていると、なんだか引っ越す事が現実味を帯びてくるな、そうだ! これから見に行くか、立川の不動産屋をまわって下見をして、その後リュウちゃんの実家に行って泊まって帰ってくるっていうのはどう?」
「ワシも夢見のところに行っていいのか?」
「当たり前じゃないか、これから共同生活をしようっていうんだぜ、なっ、リュウちゃん?」
「別にいいよ、それじゃあ、グズグズしていてもしょうがないから、膳は急げだ、すぐに行こうか」
「さっきから聞いていたんだけど、お前ら共同生活をする気なのか、やめた方がいいぞ、知り合いの奴等も前に共同生活をしていたけどうまくいかなかったぜ、絶対にうまくいきっこないよ、お前らじゃあな」窪田は先ほどから隣の席で聞き耳を立てていた。
「うるさいんだよ、窪田は、僕たちがせっかく期待にワクワクしているときに、余計な事を言って、水を差すなよ。だから化け物に変貌しちゃうんだよ、お前は」
「何を訳のわからない事を言ってんだよ夢見はよ」
「はい、はい、忠告ありがとな、でも俺達は俺達でやってみるさ、早く行こうぜ、リュウちゃん」
「分かってないんだよ、お前らなんかどうせ喧嘩別れしてしまうんだ、失敗するに決まっているんだよ、言っておくぞ、俺の忠告をちゃんと聞け! やめとけ、バカ! 後悔するぞ!」窪田を置き去りにして、三人は目白駅から電車に乗り、新宿で中央線に乗り換えて立川へと向かった。




 「窪田って、あんな奴だったのか?」ベンが首を傾げて言った。
「まあ、ちょっと、ひがんでいるんじゃないのか、仲間に入れないんでさ」竜人は軽く受け流すように言った。
「だけどあんな言い方されるとちょっとしゃくに触るよな、絶対に共同生活成功させようぜ」龍生は本気である。
「そうだな、よし絶対に三人で住めるハウスを探そうな、そして三人、仲良くやろうな、なっ、ベンソン」
「エッ、まあそうだなって言うか、一軒家に住める事は凄く嬉しいんだけれど急な話しの展開なんで、まだ付いて行けてない、て言うか、夢見とはまだ話したばかりだし」
「そんな細かい事はどうでもいいじゃないか、まあ、まあ、まあ、お互いによろしくやって行こうぜ」竜人は龍生とベンの手をとり握手をさせた。
「あっ、国立駅だ、ほらタッちゃん、ここに学校が引っ越して来るんだよ」
「ここか、次が立川か、八王子も近いんだよな」
「八王子は四つ目の駅だよ、僕の降りる駅はもう一つ先だけれどもね、なんせ高尾駅の一つ手前だからさ」
「夢見の家は、高尾山のふもとか?」ベンが少し驚いた様子で尋ねる。
「それほど田舎じゃないよ、一応、甲州街道沿いだからね」
「甲州街道? なんか時代がかった名前のところだな、結構田舎なんじゃないのか?」
「違うよ、国道二十号だよ」
「国道二十号沿いか」
「そんな事より立川についたぞ、さあ、不動産屋探しに行くか、君たち! レッツゴー」
「なんかタッちゃんは、ノリノリだな」
「知念あんまりハリキッてズッコケんなよ」
「君たち何バカな事を言っ・・・危なかった、もう少しで柱に激突するところだったよ」
「なっ、やると思ったんだ、よそ見して歩いているからだよ」
「何がやると思っただよ、わかっていたんなら早く言えよ、ベンソン」
「まあまあ、もめ事はヤメテ、不動産屋を探そうよ、左の方へ行ってみようか、だいたい不動産屋は駅前にありそうだよな、あっ、このチェッカーブーツ格好いいな」
「夢見は何見ているんだよ」
「いやちょっと、このチェッカーブーツが目に入ったもんだからさ、なあ! タッちゃんこの靴どう思う」
「リュウちゃん、なに?」
「これ、いいと思わんか?」
「んっ、まあ、いいんじゃないか、それより早く不動産屋を探さんといけないんじゃないか? のんびりしていると店がしまってしまうぞ」
「それもそうだな・・・あっ、向こうの右側のところに不動産の看板があるぞ」
「よし行ってみよう」竜人は急に走り出した。われわれも慌てて追いかける。
「ハア、ハア、急に走り出すなよ、あー疲れた、おお! 物件がいっぱい貼ってあるな、一戸建てで、そうだな、最低三部屋、いや四部屋かな、そして、一人二万から二万五千円ていったところかな、合わせて六万から七万五千円か、なっ、タッちゃん」
「なに! 急に言うな、驚くだろ」
「知念、ここに、元米軍ハウスっていうのがあるぞ」
「ベンソン、どれ、これか、一戸建てで」
「どれどれ見せてみ、エーと」
「なんだよリュウちゃん割り込んでくるなよ」
「まあ、いいじゃないかよ、エー、なんだって、一戸建てで、四畳半、六畳、八畳、居間十二畳、台所、洋式トイレ、バス、シャワー付き、庭、駐車場ありだって」
「なに、それはちょっと無理だろ、かなり家賃高いんじゃないのか」
「いやそんな事無いよ、タッちゃんここを見てみ」
「どこ、四万二千円て、書いてあるな」
「四万二千円? 三人で割れば、一人一万四千円じゃないか、これなら借りられるれろ、何だか舌がもつれるな」
「何言っているんだ、知念は。それにしても、そういう事になると計算が速いんだな」
「ベンソン、どういう意味だよ」
「別に意味はないけど」
「タッちゃん、ちょっと聞いてみようか」
「そうだな、聞いてみようぜ」物件の貼ってあるガラス戸を開け、事務所の中を覗く。
「すいません、こんにちは!」中はさほど広くなく、事務机と横にテーブルとソファーが置いてあった。
「はい、アパートをお探しですか?」奥のドアから女の人が出てきた。
「あの、そこに貼ってある、元米軍ハウスで一戸建ての物件ですけど」
「どれですか?」
「部屋が四部屋ほどあって、庭と駐車場がついていて、バス、トイレ付きで四万二千円の物件ですけど」
「はい、これですね、どなたがお借りになるのですか?」
「あの、三人で借りたいと思っているのですが」
「学生さんですか?」
「はい、共同生活をしようかと思っているのですが」
「男の学生さん、三人で借りるとなると、大家さんに聞いてみないと、ちょっとわからないですね。それと保証人が必要になりますね、ご両親とかの」
「はあ、そうですか」
「リュウちゃんとこのお袋さん、なってくれないかな」
「聞いてみないとわからないけど、たぶん大丈夫だと思うよ」
「それでは、ちょっと大家さんに電話をして聞いてみましょうか」
「お願いします」不動産屋の奥さんが電話をしている間、三人はその会話の成り行きに耳を傾けていた。
「今聞いてみたんですが、保証人がしっかりしていれば構いませんとのことですが、それと建物はだいぶ古いとの事ですが、一度見に行ってから決めたほうがいいでしょうね」
「それでは明日にでも母を連れて見に来ます、それじゃあよろしくお願いします」
「どうもー・・・リュウちゃん、よかったな、計画は順調に進みそうだな、みんなでリュウちゃんのお袋さんにお願いしないとな」
「それじゃあ、今晩は夢見のところでご馳走が食べられるのかな」
「ベンソン、君ねえ、ちょっと図々しくないか、リュウちゃんとは今日お話したばかりなんだからねえ、少しは遠慮をしたらどうなのかな」
「遠慮ってなに、そんなもの持ち合わせてないよ」
「君ねー」
「まあいいよ、ご馳走かどうかは、わからないけど、夕食は食べられるよ、きっと」
「きっとか、・・・なんか冷たい物も飲みたいよな、なあ、夢見」
「そうだ、駅を降りたら、途中でビールとつまみでも買っていくか」
「そうだな、今日は共同生活の計画成功を祝してパーティーと行こうか」
「タッちゃん、まだ成功も、なにもなっていないよ」
「そんな細かい事は気にするなよ、楽しくやろうぜ」
「知念いいこと言った、そうだよ今晩は、楽しく飲もう、なっ、夢見、そうだ、今日は夢見のおごりっていう事で、よろしく」
「なに、勝手に決めてんだよ、竜崎は」
「まあまあ、ベンソンの言う事は気にするな、あっ、駅に着いたぞ」
 三人は駅を出た後、近くの酒屋に入りビールとつまみを買い龍生の実家へと向かった。言うまでもないが、支払いはもちろん割り勘である。
「あっ! ピアノがある。夢見、ギターも持っているのか?」
「ああ、あるよ。クラシックギターとフォークギターがあるよ。それに、ボンゴとマラカス、横笛、ハーモニカにリコーダー三本、大中小でそれぞれ音の高さが違うんだ、それと・・・」
「もういいよ、そんなに出して来てどうすんだよ」
「ベンソン、そう言わずに、リュウちゃんのやりたい様に、やらしてやればいいんじゃないか」
「そうか、それじゃあ、続けて」
「えーと、シンバルと知り合いから借りているフルート、こんなものかな、あっ、そうだ兄貴のヴァイオリンがあった」
「いくらなんでも、もういいんじゃないか、リュウちゃん」
「それもそうだな、それじゃあビールでも飲もうか、ギンギンに冷えたのを冷蔵庫から持ってくるよ」
「おーっ! 冷えている、冷えている、それじゃあ、われわれのハウス計画の成功を祈って乾杯といこうか」竜人が音頭を取る。
「ところで夢見、お袋さんには明日不動産屋に行ってもらう事言ったのか? なんたって今一番大事なことだからな」
「おう、それなら大丈夫だよ、明日、午前中にでも一緒に行ってくれるって、それから、いまご馳走を持ってきてくれるらしいぞ」
「ほんとうか! 楽しみだな」
「ベンソン君は、ほんと卑しいな、まあそんなことより早く乾杯しようぜ」
「おう! そうだった、それじゃあ乾杯しようか、カンパーイ!」
「成功を祝してカンパーイ」
「もう祝しちゃうのかよ、知念は気が早いな」
「ベンソンは、余計なこと言わないの、何を祝そうが勝手じゃないか」
「龍ちゃん、二階にいるの? ちょっと運ぶの手伝って」
「あっ! お袋だ、ご馳走を持って来てくれたのかな」
「おう、おう、取りに行こうぜ」
「ベンソンはそういう事になると、張り切るんだな」
「んっ! なにが?」
「あっ、リュウちゃんのお母さんすいません。お世話になります」
「遠慮しないで、いつでも遊びに来て下さいね。今度一緒に住むとかで、龍生のことよろしくお願いしますね」
「それなら大丈夫です、私が付いていれば心配ありませんから、任せて下さい」
「おい、知念、君が一番心配だよ」
「ベンソン、変なことを言うな」
「それじゃあ楽しくご馳走でも食べてくださいね、明日一緒に行きますからね」
「リュウちゃんのお母さんよろしくお願いします、ベンソンも御礼を言いなさい」
「お前に言われなくても言うよ、ありがとうございます」
「それじゃあ、母さん、明日頼むね」
「今日は豪華な食事が食べられるな、さあ食べるぞ」
「ベンソンは食い意地が張っているね」
「知念は食べないのか?」
「もちろん食べるさ、当たり前じゃないか、リュウちゃん何か曲をかけてくれないか」
「サンタナでいいか」
「いいよ、そうだ、後で楽器を楽しもうぜ」
「この家全部夢見が使っているのか? 贅沢だな、うらやましいけどちょっと腹が立ってきたな、二階のこのアトリエ格好いいよな、何畳あるんだ」
「んーっ、二十五畳ぐらいかな」
「二十五畳ぐらいかなだ、このやろう」
「なに怒っているんだ、竜崎は」
「リュウちゃんはお坊ちゃんだからね」
「おかしな事いうなよ、タッちゃんだって実家に帰れば郵便局長の息子じゃないか、それってお坊ちゃんだよな」
「まあ、それほどでもないけれどもな」「クソー! 二人ともお坊ちゃんでいいよな、ワシなんか普通のサラリーマンの家でそれも四人兄弟男ばかりの三番目なんだぜ、それに、なにが、タッちゃんだよ、なにが、リュウちゃんだよ、気持ち悪い、ガキンチョじゃあるまいし、そんな呼び方やめろ、バカ」
「変な八つ当たりするなよ、俺なんか、九人兄弟の九番目だぜ」透かさず竜人が言う。
「そんな自慢大会はよしてさ、しかしタッちゃんって呼ぶのは確かにガキっぽいかもな、そうだ、ほかの呼び方を考えよう、そうだな?  竜人だから、リュウじゃあ僕と重なってしまうしな、ヒトじゃあ変だし、ジンはお酒だし、ジーンて言うのはどうかな、ジェイムス・ディーンじゃなくて、ジーン、いいかも、決めた、これからはジーンて呼ぶよ、いいよね? タッちゃん、じゃなくてジーン」
「好きなように呼べば、ジーンで良いんじゃないか、俺は今まで通りにリュウちゃんって呼ぶけどな」
「良いよ、それから明日、不動産屋から帰ってきた後、高尾山にでも登らないか、きっと気持ちがいいと思うよ」
「それ面白そうだな、でも大変じゃないか登るの」
「そんなに大変じゃないよ、それに疲れる様ならケーブルカーやリフトもあるから大丈夫だよ」
「ベンソン、これは体を鍛えておくのにいい機会だから、二人でがんばって登ってこいよ、俺はケーブルカーで先に行って待っているからさ」
「なに言ってるんだよ、ジーンも一緒に歩いて登るに決まっているだろ、なあ、竜崎」
「えっ、そうなの、歩いて登るのか? ケーブルカーじゃだめなのか、なんなら、リフトでもいいんだけれどな」
「なにばかな事を言っているんだよ、山に行って歩いて登らないなんて変だろ」
「別に変だとは思わないけど、なあ、知念」
「まあ、変とは思わんさ、でもここはリュウちゃんの顔を立てて、歩いて登るとするか、たまには運動もしないといけないからね」
「そうだよ、山に登って、いい汗をかけば気分もいいし、なんたって精神も肉体もリフレッシュするよ」
「そうか、まあそういうことで、明日は決まりな、それじゃあ音楽でもやって楽しもうか、リュウちゃん、ギター借りるぞ」
「ワシもギター使う、いいだろ」
「いいよ、僕はその他の楽器を適当に使うから」
「それじゃあ始めようか、ベンソンこのコード進行で弾いてくれるか、ちょっとやってみたい曲があるんだ、オリジナルなんだけどね、リュウちゃんはその他の楽器で適当に合わせてきて、ワン、ツー、スリー、フォゥ」これが三人の曲作りの始まりである。




 そして翌日、ハウスの下見の後、不動産屋で、借りる手続きも済ませ、意気揚揚、三人は、昨日の計画通りに電車に乗り高尾山へと向かった。
「よかったな決まって、なんとか俺たちで、きれいにすればいいハウスになると思うよな、なっ、リュウちゃん」
「そうだね、部屋の数もちょうど良かったし、広さも十分だよね、なんたって庭があるのがいいよね」
「ワシは、風呂とシャワーが付いていて、しかも部屋は広いし、庭はあるしで、しかも一人あたり一万四千円で住めるなんて最高だよ、君たちと友達になって良かったよ、ほんと良くぞ誘ってくれた、ありがとう」
「ベンソン、御礼だなんて、そんなに気を使わんでもいいぞ、そうかそんなに言うなら貰っておいてもいいかな」
「知念、なに勝手な事を言っているんだ、ワシは一言もそんな事言ってないぞ」
「えっ! そうなのか? 何かくれ」「いやだ」
「高尾山入口に着いたぞ、二人ともくだらない事を言ってないで、降りるぞ」
「おみやげ屋が並んでいて、観光地にでも来たようだな、なんかワクワクするな、おっ、でっかい天狗のお面があるぞ、これを誰が被れるって言うんだ?」
「誰も被れる訳ないだろう、バカな事聞くなよベンソン、ところで、本当に歩いて登るのか、もう三時過ぎているぞ、これから歩いて登っていたら夕方にならないか? 平日だし人もそんなに多くは無いし、薄暗くなってから山道を歩くのはちょっとな」
「ジーン怖いのか?」
「俺はどうって事はないけどさ、ベンソンがどうかなって思って」
「ふーん、竜崎どうなの?」
「なにが? おっ、とろろそばだってよ、うまそうだな」
「とろろそば? なんかちょっと食べたいな・・・そうじゃなくて、だから、これから歩いて登ることさ」
「早く登ろう、そして帰りに、これを食って帰ろうぜ。夢見、どっちから登れば良いんだ、こっちか?」
「そっちは、きれいに道が整備されていて自動車でも登れそうな道だよ」
「それじゃあ山登りって言う感じがしないな、他にもあるのか?」
「ああ、あるよ、左にケーブルカーの乗り場が見えるだろ、その左脇に細い道があるんだ、それを登っていくと、右にちょっと精神を病んだ人が入っている施設で窓に柵がしてあったりして、時々柵越しに手を振ったりしているのが見えるんだ、次に修験者の修行場の滝やちょっと薄気味悪い祠、異様な雰囲気を漂わせている地蔵の列などがあるよ、それからさまよえる霊が集まってくる霊山だとも聞いたことがあるよ、噂だけどねでも山にはある種のエネルギーがあって霊気などを吸い寄せる力があるらしいけどね。人間も山に登りたがるだろう、やっぱり吸い寄せられているんじゃないかな」
「オイオイ、よしてくれよ、ワシは吸い寄せられたくなんかないぞ、そんな所行きたくない」
「なんだよ、竜崎怖いのか」
「怖いというか、気味悪いぞ、そんな薄気味悪い祠とか見たくない、夢見、おかしい」
「べつにおかしくは無いんじゃないかな、結構面白いよ」
「ケーブルカーの乗り場だ、ちょうど良いや、俺はケーブルカーに乗っていこう」
「だめだよ、ジーン、さあ行くよ」
「引っ張るな、そんなに馬鹿力出すなって、痛いから、分かった、分かったから離せ」
「なら、行こうよ、竜崎も、早くしないと、本当に暗くなっちゃうからさ」
「ベンソン、逃げるぞ」
「こらー! 逃げるなあ!」
「リュウちゃん本気で怒りそうだからな・・・冗談さ、行くよ、歩いて登っていくよ、仕方ないか、ベンソン行くぞ」
「結構、山道きついぞ、さっきの祠、ほんとに薄気味悪かったな、滝の所は面白かったよ」
「竜崎、もう少し行くと、空間が広がる所があるんだ、もう直だよ」
「オォ! 突然視界が開けたな、木々の間から光が射してきれいだよな、本当に巨大なすり鉢状になっていて、まるでコロシアムを連想させるな、面白い!」
「ベンソン君は感動しているみたいだね、足元にも注意したほうが良いよ、蛇が居るかもしれないからね、ほら、そこに!」
「えっ、えっ、どこ、どこに居るんだよ、ヘビ」
「うそだよー」
「こら! 知念ふざけんな」
「おい! 二人とも、動くな、本当にそこの茂みのところでなにかが動いたぞ」
「えっ、本当か? またリュウちゃんの悪ふざけじゃないのか」
「本当だよ、ホラ、動いているよ、そこ、そこだよ」
「どこ、ウワァー! でかいヘビだー!」
「えっ、ベンソン本当か、ウワァー出た!」
「オーィ! 二人とも待ってくれよぉ」
「待てるかぁ、俺はヘビが大嫌いなのだぁー、沖縄の離島で散々ハブに怖い思いをさせられているから、苦手なんだぁ」
「ワシは子供のときに、沢山のスズメバチに山で刺されて死にかけたから、怖いんだぁー」
「それは関係無いだろう」
「ハア、ハア、ここまで来れば大丈夫だな、ビックリしたな、本当に出て来るんだものな」
「ベンソン、ハア、ハア、君はこういう時だけ逃げ足が速いんだな」
「知念こそ、ハア、ハア」
「なんだよ、二人とも、ハア、ハア、なに二人で逃げちゃうんだよ、いっしょに逃げようよ」
「ごめんごめん、突然の事だったんで、人の事まで考えていられなかったんだ」
「俺はただベンソンがいきなり逃げ出すからさ、止めようと思ってさ、追いかけたんだけれども」
「そうかあ? 竜崎といっしょに逃げていたようだったけれど、まあいいや、先に進もうか、足元にも気をつけて行こう」
「川があるぞ、カニでも居ないかな、おっ、居た、居た」
「ジーン、それを言うなら沢だろう、だって、沢カニっていうからね」
「それもそうだな」
「そんなことはどうでもいいからさ、早く行こうぜ、暗くなるから」
「ヤッパ、怖いんだ、竜崎は」
「だって、なんだか暗くなってきたよ」
「木々で囲まれているから光が遮断されていて、昼間でも暗いんだよ、きっと」
「そうか、でももう四時過ぎぐらいだぞ、誰か時計持っていないのか」
「僕は忘れた、ジーンは?」
「俺はあんまり時計をつけるのが好きじゃあないんだ、時間に動かされているみたいで、いやだしさ、まあフツウサ」
「今何時だか分からないって訳だ」
「もう後三十分も歩けば見晴台に着くんじゃないのかな」
「もう結構登ってきたぞ、なんか霧が出てきたみたいだ、やだな、あまり濃くならなければ良いんだけど、夢見まだかよ、頂上は」
「もうすぐだよ、そろそろ長く続く丸太の階段があるはずなんだけど」
「あったぞ、霧もかなり濃くなったし、ワシなんだか背筋がゾクッとするな、普通なら汗かいて、熱くてしょうがないはずなんだけど、変だな」
「僕もちょっとやな気配はするけど、たぶん霧が出たために気温が下がったから、ゾクッとするのかもね」
「俺も背筋がゾクッとしたよ、足元がやっと見えるぐらいの感じだな、周りもだいぶ暗くなって来たし、なんとなくヤバクは無いか?」
「見失わないように手をつないで行こうか、もうそろそろ頂上だよ、お互いくれぐれも注意していこう、なんかいやな感じだからさ」
「頂上らしいぞ、向こうの方が青白く光っているみたいだな、ワシ、なんだか目が回るな」
「俺も目が回るよ、おかしいな」
「僕もクラクラするよ、いや違うな周りの霧が渦を巻いているんだ、二人とも良く見てみ、ほら」
「本当だ周りが渦巻いているんだ、どういう事だ、なんかヤバイぞ、これは」
「さっきの青白い光も動き出したよ、夢見何なんだよあれは」
「僕だって分からないよ、光がいくつにも分裂したぞ、霧の渦といっしょに回り始めたよ」
「なんだか別世界の光景だな、俺こんなの見たこと無いよ」
「僕だって始めてだよ、まるで宇宙の中で銀河を見ているようだね」
「そんな、のん気な事を言っている場合か? 周りからも怪しい光が集まってきているぞ、これはヤバイよ、絶対、ワシは何でもいいからこの場から逃げたいよ」
「そうだな、渦のおかげで周りが少し見えるようになって来たしな、気付かれないように逃げるとするか、リュウちゃんどっちに行けば良いんだ?」
「右の方に行けば整備した道に出られる、ケーブルカーもあるし」
「良し、そっと速やかに逃げるぞ、逃げろ!」
「ドタッ、痛テ」
「どうした竜崎、大丈夫か?」
「つまずいて転んだ、ちょっと痛いけど、大丈夫だ」
「ベンソン、ドジるな、急げ! なんか人影らしいものも見えてきたぞ」
「オーワァー、ウーオー」
「なんだあの声は! それに、怪しい人影がなんだか増えてきているようだぞ、ヤバイぞ! 急げ! ジーン、竜崎!」
「ハア、ハア、この辺まで来れば大丈夫だよ、霧も晴れているし、竜崎、怪我はどう?」
「ハア、ハア、すりむいただけだ、何も無くて良かったな」
「しかし、なんだったんだろうな、あの光景は、もう一回行ってみるか」
「知念、冗談を言うな、もうあんな思いしたくないよ」
「でもちょっと興味あるよな、僕としては」
「いい加減にしてくれ、夢見、ワシはもうさっきの事は忘れた、なにも見なかった」
「ベンソン、そう頑なにならなくても良いんじゃないか」
「そうだよ、見たものは見たんだからさ、否定しなくてもさ」
「いや、ワシはなにも見なかった」
「もう、ほっとこう、それよか、家に帰ってなんか食べて、ビールでも飲もうか」
「あっ、それワシも賛成。あっそうだ、その前に、とろろそば・・・」
「きみねー、そういう時だけ、反応が早いんだからな、もう一回さっきの場所に戻るか?」
「なに、さっきの場所って、知らないな」
「ベンソン、そらっとぼけるなって」
「もう良いよ、それじゃあ、とろろそばを食べたら、帰ってゆっくりしようぜ、僕もちょっと疲れて気分が悪いよ」
「おい! リュウちゃん、なんか変な霊にでも憑かれてきたんじゃないだろうな」
「そんなことないよ、ちょっと疲れただけだよ、早く帰って寝よ」
「だめだよ、きょうは朝まで騒ごうぜ、昨日の続きだ、レッツゴー」
「何で竜崎があんなに乗っているんだ、なんかおかしな霊にでも憑かれたのかな、困ったものだな、今後が不安だよ、ほんと」
「リュウちゃん、なにぶつぶつ一人で言ってんだ、今夜も張り切って騒ごうぜ」
「えっ! ジーンもか! 仕方ない今晩も付き合うか」  その日も結局深夜三時ごろまで話や音楽などで楽しく騒ぎ、いいかげん疲れも出てきたところで、床にふとんをひき、みんなでごろ寝である。いつしか三人は深い眠りについていた・・・・・・・・・・・。


弐 夢の知らせにつづく


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