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- 夢見妙 -
yumemimyou


第一章   変貌


・・・弐  夢の知らせ・・・


 
「天気も良いし、空気はおいしいし、最高のドライブ日和だな」
「うん、そうだな、しかし、ほんと久しぶりだよな、こんなして二人で遊びに行くのって、なあ、亮太」
「そうだよな、最近会わなかったからな」 彼の名は滝沢亮太、龍生とは幼稚園のころからの幼友達である。亮太の夢はスーパーカーのデザイナーになることだと中学生のころから言っていた。 その為かどうかは知らないが、現在デザイン学校に通っている。
「山道は気を付けて走れよな、危ないから、言うまでもないか、お前運転は、うまいからな、なにせ滝沢モータースの息子だからな」
「そんな事無いよ、運転は、うまい運転より確かな運転だよ、自動車を甘く見たら事故の元だよ」
「やっぱいいこと言うよ、亮太は」
「龍生、そんな誉めたってなにも出ないぞ」
「あれ、なにも出ないのか、言って損した」
「ハッハッハッハァー」二人は楽しげに笑った。
「ところで、龍生は最近釣りはやったことあるのか?」
「子供のころにやったきりで、最近は無いな」
「途中良い所があったらやってみようか? 面白いぞ」
「釣りの道具持っているのか?」
「トランクの中にいつでも入っているよ」
「結構釣りに凝っているんだ?」
「かなりいろんな種類の竿も揃えたぜ」
「亮太は良くいろんな事に手を出すよな、前はダイビングをやっているって言ってなかったっけ」
「ほんのちょっとね、それに今は船舶の免許を取っているんだ」
「ヘーエッ! 海の男にでもなるつもりか? そう言えば、お前小学生のころから加山雄三に憧れていたものな・・・そんな事より、なんか凄い所に来ちゃったぞ、あそこ見てみ」
「んっ、どこ?」
「よそ見するな、危ないから、ちょっとその辺で自動車止めようぜ」
「そうだな」
「ちょっと自動車から降りて見てみようか」
「なんだあれは、すり鉢状の凄く広いな、この異常な広さの空間は何だろうな」
「なあ、凄いだろ、トンネルを抜けると、そこは雪国だったじゃ無くて、細くうねった樹木のトンネルを抜けると、そこは広々たる大自然のコロシアムだったなんてね、 なんか別世界って言う感じだよな」
「確かに、大自然の中のコロシアムって言った感じだよ、近くまで行ってみようか」
「うん、そうだな、行って見ようか」
「いつまでも眺めていないで、早く乗れよ」
「オオッ、それにしてもほんと凄いな」 二人は、その場所を目指して走り続けた。
「近いようで結構距離があるみたいだな」
「そうだね、なかなか近づかないよな、もっと近いと思ったんだけれどもね、意外と遠いんだよな、時々見えなくなるから、龍生、方向確認はしていろよな」
「えっ、僕はそう言うの苦手なんだけどな」
「あっ、そうか、龍生方向音痴だったっけな、まあ何でもいいから、見失うなよ」
「あんなにでかいんだから平気だろ」
「いや、分かんないぜ、子供のときに千葉の海で、俺がふぐを見つけたから、龍生に見せてやろうと思って、早く来てみって言っているのに、 十メートルと離れていない距離なのに、グズグズしているから、ゆっくり泳いでいるふぐの方がどこかへ行っちゃってから、やっと来たんだからな、ふぐより遅いんだよ龍生は」
「そんな昔のことを言うなよ、そう言えば、二、三年前」
「二年か三年か、はっきりしろよ」
「一浪で芸大を受けて落ちた年だから、二年前だな、その時に、がっかりして、気分転換に九州一人旅をしたんだ」
「一人で出かけるなんて珍しいな、どのくらい行っていたんだ」
「二十一日間か二十二日間」
「龍生なあ、その微妙に、いいかげんなところ、何とかならないか」
「今更しょうがないよ、それで何の話をしようと思ったんだっけ?」
「俺は知らないよ、九州の旅が、どうのって言っていたぞ」
「あっそうだ、それで、その旅の途中の事なんだけど、下着泥棒にされかけたんだ」
「なにそれ、本当に取ったんじゃないのか?」
「バカ! 取るわけ無いだろう、変なこと言うな、誤解されたんだよ」
「ふーん、どうして誤解されたんだよ」
「それがさ、ユースホステルでの事なんだけれど、寝袋とザックっていった格好で旅をしていたんだけれどさ、なるたけ荷物を少なくする為に、 下着は毎日洗って履き替えていたんだ。その日は、そこを早朝に発とうと支度をして、前の晩に干しておいたパンツとシャツを裏の洗濯干し場に取りに行き、 パンツとシャツを手にとって表に出ようとしたとき、突然男の人に声をかけられたんだ・・・・」




 
「オイ、こらっ! 何をやっているのだ」
「はい? 何ですか、いきなり驚くじゃないですか」
「なんだその手に持っているものは?」
「下着ですけど、昨晩干しておいたパンツとシャツを取りに来ただけですけど」
「嘘をつくんじゃない、下着を盗んで来たんだろう、正直に言え、最近下着泥棒が良く出るって言うが、お前か?」
「何を言うんですか、これは僕の下着ですよ」
「何でもいいからちょっと事務所まで来なさい、話はそこで聞くから」
「なんですか? 腹立つな、誤解も甚だしいですよ」 龍生はユースホステルの事務所に連れて行かれた。
「洗濯干し場から出てきたところを捕まえました」
「ちょっと待ってください、何で捕まえられなければいけないんですか、何もしていないのに」
「ここ数日女性の下着が盗まれたという苦情が続いてね、見張っていたところだったのだよ、残念だったね、それで、そこに持っているものは何かね? 見せてみなさい」
「さっきもこの人に言いましたが、昨晩干しておいた僕の下着ですよ、ホラ、見れば分かるでしょう、女性がこんな下着を着ますか? 間違い無く僕のパンツです、 変な誤解しないでください、間違っても下着泥棒なんて事は絶対にやりません、そんな事をやる奴は大嫌いなんですから! 冗談じゃない」
「これは男物の下着だな、間違えのようだね、呼び止めてすまなかったね、それじゃあ良いですよ」
「館長、ちょっと待ってください、ひょっとしたら、ザックの中に隠し持っているかもしれませんよ」
「何なんだよ、ならザックの中も見せますよ、冗談じゃないよ、そんなに疑られるなんて」
「まあ、まあ、そこまで疑る必要は無いだろう、君が取ってないと信じますよ、しかしね、君もこんな早朝に、紛らわしい所から出てくるからいけないんだよ」
「しょうがないでしょう、早朝出発しなければならないんだから、ただ自分の洗濯物を取りに行っただけなのに」
「まあ気を悪くしないで旅を続けてください、くれぐれも気を付けて下さいね」
「じゃっ、どうも」
 一度はユースを発ったものの、どうしても釈然としないまま旅に発つのは気が進まなかったのでまた戻った。
「先ほどのパンツ泥、いや先ほどの方、何かお忘れ物ですか?」
「あのですね、なんかこのまま行くのもスッキリしないので、私もその犯人を捕まえたいと思うのですが?」
「でも、えーと、お名前は何でしたっけ?」
「夢見龍生です」
「あっ、夢見さん、あなたはまだ旅の途中でしょうし、こんな事に巻き込んだ私共にも責任はあるのですけれども、 あなたにこんな事で大切な時間を使わせては申し訳がありませんので、どうぞ楽しい旅を続けてください」
「いや、これも何かの縁です、大切な旅の一ページとして、真犯人を捕まえてスッキリしたいと思います、是非、手伝わせてください、お願いします」
「しかしですね、何かあっても、こちらとしては責任取れませんよ」
「かまいません、私の自由意志でするのですから、ご迷惑はかけません」
「はあ、そこまで言うのでしたら、こちらと致しましては、断る理由もありませんので、それでしたら今晩の宿泊代は無料と致しましょうか、 当方の責任もありますし、そう言う事で良いでしょうか?」
「結構です、それでは明日の早朝こちらに来ますので、ところで今朝はどうだったのでしょうか?」
「あっ! そういえば、あなたの事で、洗濯干し場がどうなったか確かめてなかった、ちょっと洗濯干し場に行ってみますが、一緒に行きますか?」
「はい」龍生を含めた三人は洗濯干し場へと向かった。




 
「なにか、女の子達が集まっていますね、何かあったようですね・・・どうしました?」
「あっ、ちょうど良かった、どうしようかと思っていたんです」
「また、下着でも盗まれたんですか?」
「そうなんです、今取りにきたらないんです。なんで分かったんですか? ここよく取られるんですか?」
「ユーチンなんか、結構気に入っていたのが無くなっていたんだから、モウ、プン、プン」口を膨らませ、可笑しな仕草をした。
「ハア・・・? 今日もやられましたか、ここ一週間ほど毎日のように下着が無くなっているんですよ。不思議なことに、いくら見張 っていても犯人の姿を見かけた事が無いんですよね」
「姿無き怪盗ですか」龍生は思わず口走ってしまった。
「パンティ泥棒ですからね、それほど格好よくは無いでしょうけど」
「ハッ、ハッ、ハッ、ハアー、そりゃそうですよね」笑ってごまかした。
「今朝もですね、犯人かと、捕まえてみたら」
「その事は良いんじゃないですか、なにも、ここで言わなくても」龍生は口を挟んだ。
「それもそうですね、ハア、ハア、ハアー、余計な事を言ってすいませんね」男は龍生に耳打ちした。
「こうなったら、僕は本気でやりますよ、今日の夜中から見張って必ず捕まえましょう」
「えっ! なんかやるんですか?」女性の一人が乗り出した。
「下着泥棒を捕まえるんですよ、僕らで」
「おもしろそう、わたしもやりたい」
「ユーチンもやりたい」
「なんだユーチンとは?」
「本当は由美子って言うんだけど、みんなにユーチンて呼ばれているんだ」
「あっ、そうなの、ユーチンね?」
「遊びじゃあないんですからね、危険かもしれませんので、お嬢さんたちは、やめておいたほうが」
「あの、それはちょっと、女性をバカにしているのではないでしょうか? わたし達だって泥棒ぐらい捕まえられるわよねえ」
「そうだ、そうだ、ユーチンだって捕まえるぞぉ!」
「ユーチンはいいよ」龍生は小声でつぶやいた。
「あっ、この男、ユーチンをバカにした」
「地獄耳だな、分かった、分かった、君たちも一緒にやれば」
「若い女性には、かないませんな、若い女性だけじゃないか、ハッ、ハッ、ハアー、それでは今夜、深夜三時ごろから集まって見張りましょうか、夜食などを用意してお
きましょう」 「それはうれしいですね、それでは深夜の三時にロビーに来ますので」
「あたし達も三時に来ます。ところであなたのお名前は?」
「あっ、僕ですか? 夢見です、夢見龍生って言います。君は?」
「竜崎今日子」
「竜崎今日子さんですか、竜の字が付いてますね、奇遇だな」
「よくそういう事を言って近づこうとする男っているんだよね、古い古い」
「なに言っているんだよ、ユーチンは・・・僕も今日子さんもリュウの字が付いているのは本当の事じゃないか」
「あたしのことユーチンだなんて呼び捨てにした」
「だって君ユーチンって、言うんだろ?」
「そうだけど」
「あなたは、どちらからいらしているんですか?」
「僕は東京、東京って言っても東京の外れなんだけど、そこで生まれ育ったんだ」
「わたしは、今年東京の薬科大に入学して、今は東京に住んでいるんです、って言っても、引っ越したばかりなんですけど、実家は、北海道なんです」
「北海道ですか、行った事ないけど、空気の綺麗なとこなんでしょうね。いつか、行ってみよう」
「是非、いらしてみて下さい」
「東京にいるんならまた向こうで会えるかもしれないですね」
「ユーチンも同じ薬科大で東京に住んでいるんだけれどもな」
「あっそうなんだ、フーン、ところで、今日は、なにか予定はあるんですか?」
「ユーチンはね・・・」
「ところで今日子さんはどうするんですか?」
「このあたりを観光してみようかと思っているんです」
「ちょうど良かった僕も観光をしてみようと思っていたところなんです、良かったら一緒に行きましょうか?」
「あっ、良いですね、まだ時間もありますしね、いろいろと、見たい所もありますから、みんなで一緒に行ったほうが楽しいですよね」
「みんなでね・・そうですよね・・・それでは、まだ九時だから、少し準備をしてからこのロビーに十時に待ち合わせということで、どうかな?」
「はい、それでいいです。それでは、また後で」
「ユーチンも十時ね」
「あっそうだね、君も一緒にね、んっ、わかった、それじゃあ、あーっ・・・」
 龍生、今日子、ユーチンの三人は主だった観光名所を観てまわり夕方ユースに戻り、食事をとった。
「今日は早めに一度寝て、深夜二時三十分ごろ起きて戦闘開始と言うことで、それまでに少し打ち合わせをしておこう」 ラウンジで打ち合わせをしているうちに、いろいろな話で盛り上がり、気が付くとすでに十時を回っていた。
「いけないもう十時を過ぎちゃったよ、寝ておかないとまずいな」
「三時までにロビーでしたよね、それではその時にまた、おやすみなさい」
「ユーチンも、おやすみーぃ」
「おやすみなさい、じゃあ僕も寝ておくとするか」
 そして深夜二時三十分になったころ。




 
「みんな来てないな、まだちょっと早かったかな、椅子にでも座って待っているか」しばらくして。
「あら、もう来てたの、わたし達もちょっと早いかなって思いながら来たんですけれど、ユースの人はまだ来ていないようですね」
「そろそろ来るんじゃないかな、これから朝まで大変だぞ、もしなにかあっても危ないから深追いしないほうが良いよ」
「集まっていますね、ご苦労様、夜食を沢山作っておきましたから、お腹がすいたら食べてください、飲みものも用意してありますよ、皆さんくれぐれも気をつけてくださいね」
「まだ詳しい様子がわからないので、一応簡単な説明と打ち合わせをしておきませんか?」龍生が提案する。
「そうですね、それでは、二つのグループに分かれて見張りましょうか、えーと、夢見さん達若者グループとユースのおじさん職員グループということで、 いいですね、室内から干し場に続く通路と干し場から表の道路に続く通路の二箇所に、分かれましょうか」
「それじゃあ、僕らは室内の通路側から干し場を見張っています。それでいいよね、今日子さん?」
「ユーチンは良いよ」
「はい、ユーチンさんは良いのね、分かった、それで今日子さんは?」
「わたしも、それで良いです」
「夢見さん達は三人も居るのだから交代で見張れば良いでしょう、なんせ朝まで見張るようかもしれませんからね、上手に交代で見張ってください、 私たちは表に出る通路側から見張っていますから、食事などは、ラウンジに、置いておきますからご自由に召し上がって下さい、それでは向こうに居ますので、 何かあったら言ってください、お願いしますね」
 それぞれ二手に分かれて、見張りは開始された。
「一人三十分交代で見張ろうか?」
「三十分も一人で見張っているの、ユーチンは、やだよ、一人じゃ怖いもん」
「みんなすぐ横に居るよ、ただその時間内、責任を持って見張るって言う事さ」
「でも三十分も見てられないよ」
「辛抱の無い人だなユーチンさんは、今日子さんはよく付き合っていますね」
「そんな悪い人じゃないんです、良い所もいっぱいあるのよね」
「だって、怖いんだから仕方ないよ」
「それはそうかもしれないけど・・・それじゃあ二人で見張って一人二十分づつにしようか? 最初、僕が一人で十分やるから、そして一人加わって二人で十分、 押し出し式に一人づつ加わるんだ」
「二人で二十分なら良いよ、それなら、なんとかガンバルよ」
「良し決まり」
 それから一時間ほど経ったころ。
「もう三時四十分頃かな」龍生は洗濯干し場を見張りながら言った。
「そうね、それではユーチン交代ね」今日子が交代に座る。
「のどが乾いたね、休憩中で申し訳無いんだけどユーチン、なんか飲み物と簡単に食べられるものを持って来てくれないかな、二人分」龍生が言う。
「ユーチンの分も持って来よ」
「なんでも持って来て良いよ、暗いから懐中電灯を持っていけば」
「あっ、そうか、暗いんだ、怖いな」
「大丈夫だよ、小さい明かりは点いているから」
「それじゃあ行って来るね」
「ほんと怖がりだな、なんか干し場のほうから冷たい風が来るね」
「私もさっきから背筋がゾクゾクするの、なにかしら」
「なんか嫌ーな空気が流れているみたいだから、気を付けたほうがよさそうだね」
「龍生さん、あんまり、脅かさないで」
「ヒャー! ヒーィ、ヒーィ、たすけてー、出たぁ!」
「ユーチン、どうしたんだよ、何が出たんだ?」
「どうしたの? ユーチン」
「今、ラウンジで、飲み物と食べ物を袋に詰めて戻ろうとした時、なんとなく背筋がゾクゾクして、嫌な気配がして、振り向いてみたら青白いボーっとしたものが、 あたしの横をスーっとすり抜けて裏庭のほうへ行ったの、うわーぁ!」
「コラ! 大きい声を立てるな」龍生は慌てて制止した。
「うわーぁ! あそこにもいる!」 ユーチンは物干し場のほうを指して叫んだ。その事に驚き、二人も慌てて振り向くとそこには信じがたい光景が繰り広げられていた。
「なんだ! あの青白い発光体は、何かを探してさ迷っているようだ」
「上空の方にも、何体か飛び回っているわ、何なの、怖い」
「何が起こっていると言うんだ!」 三人は身震いをしながら、ただ呆然と成り行きを見つめるだけである。もちろん他のおじさん二人も・・・・・・。
 その後も、いろいろな出来事を経験しながら旅を続けた。




 
「そういった事があったんだ、どう思う?」
「エッ! ちょっと待てよ、その話本当か? それって下着泥棒が幽霊だなんて言うんじゃないだろうな」
「それはどうかな、その後もいろいろあったんだけど、なぞに包まれていてハッキリしないんだよね」
「九州に龍生一人で行ったの? 一人で喫茶店にだって入れないくせに」
「まあ、そうだけど、いまでも一人では入らないよ」
「よく行ったな、でもそのパンツ泥棒の誤解が元で偉い目にあったよな、慰謝料払えっていうんだよな」
「そういう問題でもないんだけれどもさ、他にもいろいろな事があったんだけれど、あっ! 着いたみたいだな、近くで見ると、また凄いな!」
「本当だな! さっきの話の続きは、今度聞かせてくれよ」
「ああ、いいよ、亮太、岩場を下りて行ってみるか?」
「水のたまっているところが何ヶ所かあるな、形からして、もともと大きな湖か何かだったのかな、何か釣れるかもしれないから釣り竿を持って行ってみようか」
「そうだな、気を付けてな」二人は足元に注意しながら岩場を下りていった。
「龍生、この岩場で釣ってみようか、この竿を使えよ、結構いい竿だろ」
「これがリールか、アレ? 回らないよ、このレバーどうしたら回るの?」
「ロックを外すんだよ」
「ロック? ああ、これか・・・回った」
「はい、これが餌、こうやって付けるんだよ、龍生、やった事無いのか?」
「だから小学生以来だって、だからこんな凝った竿は使った事無いよ」
「えっ、べつに凝ってなんかないぞ、龍生は原始人みたいな釣り方のほうがあっているかもな」
「原始人は無いだろう」
「なんでもいいから水面に糸を垂らしてみな」
「あのさ、よくテレビで見るんだけれども、竿を撓らせて遠くに針を飛ばすのをやってみたいんだけど、出来ないかな」
「出来ない事は無いけれど、よく浜から遠くに投げるときなんかにやるんだよな、まあ、やっても構わないけれど」
「どうすればいいの?」
「投げるときにリールのロックを外して、なるたけ大きく竿を振って遠くに針を飛ばすんだよ、やってみ」
「よし、飛ばすぞ、ソレッ! 行った」
「おおっ! 飛んだ、飛んだ、うまい、うまい」
「プツーン」
「アレッ、重と針だけ飛んでいっちゃったよ」
「龍生、何やっているのよ、リールのロック掛けただろ?」
「わからない、なにがなんだか、なんかやったのかな?」
「もういいよ、後で車に戻って他の竿を持って来てやるよ」
「あっ! 亮太、空を見てみな、なんか変じゃないか?」
「んっ、空がどうしたって?」
 驚いた事に、そこには空ではなく水面の底が見えた。太陽の光を透かして、青一面に宝石を鏤めたかのようにキラキラと、波が波紋となり幻想的に光り輝く。 見渡す限り青く広い、ゾットするような美しさだ。われわれはその美しさに、しばらく呆然と眺め立ちすくんでいた。
「オイ、龍生、なんで空に水面があるんだ、それともアレは蜃気楼かな?」
「いや、確かに水面にしか見えないけど、夢でも見ているのかな」
「俺は眠ってなんかいないぞ、あの水、まさか落ちてきたりしないだろうな」
「そうだよな、上空に水だもんな、でも考えてみれば大量の雨が降るわけだから、上空にはソレだけの水分が浮いている訳だよな、ソレが何らかの影響で、 例えば太陽光による光の屈折か何かで、こういった現象を見せているのかもしれないな。そうは考えられないか? 亮太」
「そうだな、世界には色々と不思議な現象が起こっているからな、世界七不思議なんて言うものもあるしな。このくらいの事があってもおかしくはないのかもな」
「そうだよ、空に水面があったって良いじゃないか。何処かで聞いたような言い回しだけれどもさ」
「龍生の言っている事も分かったようなわけの分からない事だけど、世の中って結構理解を超えた事がいっぱいあるからな、これはこれで良いのかもな、そういう事にしておこう」
 亮太は少し不安を残しながらも一安心と言った様子で再び釣りを続けた。龍生は、と言えば、針の無くなってしまった竿を手に取るも、やる事も無く、 手持ち無沙汰に辺りを見渡していた。
「ほんとに岩壁に囲まれているんだな、まるで水を抜いた巨大な池って言った感じだな、んっ、なんだろうこの感覚?」
「どうしたんだ、なに、妙な顔をしているんだよ」
「まるで僕たちは池の底を這っている小さな虫だな」
「龍生、何を言っているんだよ」
「ヤバイぞ、来る! 上だ!」
「なにが来るんだ! えっ! まさかー!」
 天空の水面は割れ、水は滝のごとく落下をし始めた、状況はまったく違うが、まるでモーゼの十戒を思わせる情景である。
「うわぁー! 水が落ちてくる、どうしたらいいんだ!」
「早く岩場を登って、自動車のあるところまで引返さないとだめだ、亮太、いそげ!」 二人が岩場を登りはじめた時、想像を絶するほどの水の量に、彼らは叩き落されてしまった。
「たすけてくれぇー! ああ・・・ああぁーっ」「たす・・・けてぇ・・・」 彼らの声は水の中へと、かき消されてしまった。
「オイ! 大丈夫か?」 もがきながらも、やっとの事で岩場の窪みにしがみ付き二人は、なんとか耐えた。
「おれは大丈夫だ、龍生はどうだ?」
「大丈夫、でも、早く脱出しないと、ヤバイぞ」
「もう、さっきほど凄い勢いで降ってはこないようだぞ、今のうちに岩を登ろう、急げ!」
「そうだな、よし行くぞ!」
 二人が今もなお降りつづける中を必死で登っていくと、遠くより恐ろしき音が迫ってくるのを感じた。
「龍生、なんか聞こえてこないか?」
「えっ、そう言えば遠くの方から、ゴーっていう音が聞こえるな、なんだ? いやな予感がするな」
「なんでもいいや、早く登ろうぜ」 半ば登ったころ、恐ろしき音はすぐ近くまで押し寄せてきた。
「オイ! 見ろ龍生、あの白い壁の塊を、大波が押し寄せてきているんだ、大変だ飲みこまれてしまうぞ!」
「うわぁー! 早く登らないと、間に合わないぞ」
「うわぁー! だめだぁー! 間に合わない、たすけてくれぇー!」
「うをぉー! た・す・け・ガボガボ・てぇー・・・ガボガボガボ」 ―――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 
「オイ! 龍生、オイ、こら! 起きろ、どうしたんだ? なに苦しんでいるんだ? オイ、着いたぞ!」
「あっ! 助かったのか? 天国じゃあないよな、良かった」
「なに寝ぼけたこと言っているんだよ、ある意味お前は天国にいるよ、ほんと」
「なにって、さっき、岩場を降りていって、水に飲みこまれてさ、死にそうになったじゃないか?」
「なに言っているんだよ、水を飲んで、死にそうになった? なに、おかしな夢を見ているんだよ」
「違うよ、水に飲みこまれ・・・もう、どうでもいいや、生きてて良かった」
「なんでもいいけれど、おかしな夢を見て、脅かすなよ」
「うんっ、でも凄くリアルでどう考えても実際にあったとしか思えないんだけれどもな、夢だったのか、まあ夢で良かったんだけれども、いつ寝てしまったんだ? コロシアムのような所も夢だったのか?」
「あそこには結局辿り着く事が出来なかったんだ、お前寝ていたから起こさなかったんだけれど」
「そうだったんだ、それじゃあ、いつ寝てしまったんだ?」
「九州一人旅でパンツ泥棒に間違いられた話の後だよ」
「そうか」
「それより、着いたぞ、自動車を降りて行ってみようぜ」
「どこに着いたんだ」
「まあ行ってみれば分かるよ、さあ行くぞ」
「なんかうす暗いな、ちょっと気味が悪いし」
「林の中だから、太陽の光が届きにくいんだよ、だいぶヒンヤリするだろ」
「ヒンヤリと言うか、背筋がゾクッと、するんだけど」
「足元に気を付けてな、もう直だから」
「あそこになんか古びた建物があるよ、ツタが巻き付いていて、かなり凄い建物だぞ」
「あれだ、あれ、あの建物だよ、きっと」
「えっ、あそこに行くのか? あんまり気が進まないな」
「こないだ雑誌で探した建物なんだ、なんでも・・・出るらしいんだよ」
「なにが?」
「得体の知れないものが」
「やめようよ、ちょっと、勘弁してよ」
「龍生、以前からそういうの好きだって言ってたじゃないか」
「えー、でも・・・興味はあるけど、あまり怖い思いは、したくないよ」
「まあ折角来たんだから、行ってみようぜ」
「えー、冗談言うなよう・・・本当に行くのか? 参ったな、しょうがない覚悟を決めて行ってみるか」
「おお、結構古くて不気味だな」
「古いなんてもんじゃないよ、半分朽ち果てているぞ、大丈夫なのか?」
「なんでもいいから入ってみよう、すいません、誰かいませんか? 勝手に入りますよ」
「おい! 亮太、本当に入っても良いのかよ」
「わからない」
「わからないのかよ、バイオ何とか研究所って書いてあるのかな、なんかヤバそうだぞ、蜘蛛の巣がすごいな、身体中にまつわり付いてくるよ、気持ち悪いなー」 二人はともかく中に入り、奥へと進んでいった。
「コンクリートの打ちっぱなしだな、結構崩れているところもあるぞ、それにしてもすごい状態だな」
「もう何年も使ってないって感じだよな、龍生見てみ、ここは事務室かな」
「そうらしいな、こっちは、オッと! 汚い・・・取っ手がほこりだらけだよ。あれ? ベッドや椅子があるよ」
「なんの研究所だ? 廊下の先にもドアが幾つもあるよ、行ってみようか?」
「亮太来てみ、なんかいろんな機械が並んでいるぞ、動くのかな?」
「どの部屋も怪しい機械がいっぱいだな、何かの実験でもしていたのかもしれないな」
「アウーッ」「ウウーッ」
「亮太、今なんか聞こえなかったか?」
「エッ! そうか? 気が付かなかったな」
「アウーッ」
「ホラ! 亮太、今聞こえただろ」
「聞こえた、何かが唸っているような、苦しんでいるような」
「なっ、聞こえるだろ、下の方から聞こえてくるよ、地下室でもあるのかな?」
「龍生、やめようか? やはりヤバそうだよ、絶対!」
「なんだよ、入ろうって言ったのは亮太だろ」
「まあ、そうだけど」
「ここまで来てやめるのもな、なんか気になるじゃないか」
「そうなんだよな・・・わかった」
「ソット覗いてみようぜ、こっちの方から聞こえてくるぞ、亮太、懐中電灯持ってきたか?」
「一応ミニライトを二個持って来たけど」
「亮太は用意が良いな・・よし、それじゃあ行くぞ! こっちだ」
「なんの建物だったんだろうな? 大学の研究所にしては小さいし、個人の研究所って言った感じかな? なにを研究していたんだろうな」
「地下に降りる階段があるぞ・・・亮太、暗いから気を付けて、ここにも扉がたくさん並んでいるな、この部屋も開けてみようか」「ギギギギー」龍生はミニライトで部屋の中を照らしてみた。
「んっ! なんだ、ウエー! びっくりした! 気持ち悪い、なんか生物の資料室だ」
「どうしたんだ龍生、うわっ! 何の標本だ、気色悪いな、まさか人間の解剖?」そこにはホルマリン付けの得体の知れない生物らしきものが、いろいろな大きさのガラス瓶に入って幾つも並んで置いてある。
「亮太! 気持ち悪いから早く部屋を出よう」
「まだ幾つもドアが並んでいるよ、奥の方でうめき声が聞こえるな、何か居るぞ・・・龍生、気を付けろ」
「このドアの向こうから聞こえてくるよ・・・亮太、開けてみようか?」
「いや、やめよう! 戻った方が良いよ」
「ウヲアーッ! ギェーッ!」
「なんだ今の叫び声は?」亮太は、いつでも逃げられる体制をとって構えた。
「この世のものとも思えない、恐ろしく、悲しい叫びだな」
 扉の向こうになにが存在すると言うのか? 彼らは、身の毛もよだつ思いに駆られながらも、未知なるものへの好奇心に、心を奪われ、恐る恐る、扉を開けた。
「んっ、なんだこの大きな塊は、動いたぞ! 気を付けろ」
 恐る恐る龍生は、その塊にミニライトを向けた。  ミニライトの光に照らし出されたものは、この世のものとも思えぬ、おぞましき恐怖なるモノであった。
「うわーっ! なんだこれは、化け物だー」
「うっ!」  龍生はその生き物を見た瞬間、声を詰まらせた。それはまさしく以前夢の中で見た、得体の知れぬ生き物へと変貌をしていく友人の姿、そのものであった。
「これは! あの時の、どうしてここに」
「龍生、何を言っているんだ! お前この怪物を前に見た事があるのか?」
「ヤメロ、ヒカリヲムケルナ」  そのモノは、すでに闇の体と化していた。
「ミンナヤラレテシマウゾ、ヤツラニ、ヤミノモノ・・・ニ」
「なんだ今のは、頭の中で声がした?」
「どうしたんだ龍生?」
「直接頭の中に、何かが語りかけてくるんだ・・・ヤミノモノ? なんだろう? ヤラレル? なんの事だ?」
「ニゲロ! ハヤク!」 その化け物は、かすかに人間としての理性をまだ持っているようであった。
「逃げろって、どこへ?」
「クルゾ!」
「なにが来るんだ?」
「さっきから何を言っているんだ?」
「亮太には聞こえないのか? この声が」
「なんにも聞こえないぞ、化け物がなんか言っているのか?」
「何かが来るから、早く逃げろって言っているんだ」
「なにが来るんだ?」
「わからないよ、とにかく逃げよう」
「よし、なんでもいいや、とにかく逃げるぞ」
「こっちだ、龍生、階段を上って、廊下を右にまっすぐだ、急げ」
「外の様子が変だぞ」  彼らは、廊下の窓から外を眺めて驚いた。
「なんだあの青白い光の大群は」  真っ暗な空間は深い霧に包まれ、その霧の中を無数の青白く光る玉が尾をひいて渦を巻きながら飛びまわる様はまるで銀河を思わせる。
「以前どこかでこれと同じ様な光景を見たような、きれいと言うより恐ろしいな、何なんだアレは、まるで意思を持っているように見えるぞ」
「ひょっとしたら、アレがさっき言っていたヤミノモノ?」
「何だよ、それ?」
「窓が!」 その青白き光は一斉に窓に向かってぶつかり始めた。
「破られるぞ、どうする? 龍生!」
「ウワーッ! 亮太!」
「龍生!・・・」  窓は破れ、青白き闇の者たちは一斉に建物の中へとなだれ込んできた。
「亮太! 早く逃げろ! やられるぞ! 逃げろ!」
「ウワーッ! たすけてくれー! 龍生! 苦しい、熱い、溶ける、身体が、たすけて、龍生!」  龍生は廊下にあった古いロッカーに身を隠し、振るえながら扉の隙間から一部始終を垣間見ていた。
「あっ! 亮太が変貌して行く、身体が崩れてしまう、どうしよう、たすけなくちゃ、どうしよう! あっ! あれは何だ!」どこから沸いて出てきたのか、 体がドロドロに溶けかけたかのような得体の知れない生き物が、ゾワゾワと幾つも這い出して来た。
「アレは、かつて人間だったのか?」  龍生は、そのおぞましい姿に、驚愕し、どうする事も出来ずに、ただ震えながら呆然と見つづけていた。 闇の者たちと化け物は、何かを嗅ぎ付けたかのように、ロッカーを取り巻き始めた。
「どうしたらいいんだ! どうしたら! どうしよう! ウワーッ、やられるー! た・す・け・て・く・れー! ギヤー!・・・・・・・・」  ―――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 
「オイ! リュウちゃん、どうしたんだ? 起きろ、なに魘されているんだ! オイ!」
「溶ける、身体が、たすけてくれぇ!」
「なに寝ぼけているんだよ」 竜人の声も届かぬまま、龍生は床を転げまわりながら、もがき苦しんでいる。
「変貌してしまう、化け物になってしまう、誰か助けてくれぇー!」
「ピシ! ピシ! しっかりしろ、リュウ! 目を覚ますんだ!」  竜人は龍生の頬を叩いた。
「えっ! あっ! 知念、ジーン、良かった、夢だったんだ、本当に良かった、夢で、もうだめかと思った」
「大丈夫か、ひどく魘されていたぞ」
「オレの身体、溶けていないよな、何ともなっていないか?」
「まだ寝ぼけているのか、何ともなっている訳ないだろう、夢なんだから、あっ! ちょっと待て、後ろを向いてみ」
「なに! どうにかなっているのか? なんだよ、どうしたって言うんだよ、早く教えてくれよ」
「んーん、ちょっと待て」
「なんだよ、何とかしてくれよ」
「んーん、何ともないよ」
「なんだよ、脅かすなよ」
「あまりにも、リュウちゃんが血相を変えているからさ、ちょっと脅かしてやろうかと思ってさ」
「ふざけるなよ」
「ごめん、ごめん」
「さっきから、なに騒いでいるんだ、うるさいな、寝てられないだろうが」
「ベンソン、目がさめたか? あのな、リュウちゃんが寝ぼけて変な事をいうから、ちょっと、からかっていたんだ」
「なに夜中に、やってんだよ、いいかげんにしろよ、寝不足になるだろが、ゆっくり寝かしてくれよ」
「俺に怒るなよ、リュウちゃんが寝ぼけるからいけないんだから、怒るならリュウちゃんに言えよ」
「もういいよ、なんでもいいから早く寝ろよ、ワシは、寝よ―――あーっ、目がさめて、眠たくなくなっちゃったよ、 くそ! それでなに寝ぼけていたんだよ夢見は? あれ! 二人ともなに眠っちゃって居るんだよ、ふざけるなよ、 眠れなくなっちゃったじゃないか、オイ、知念! なんか話そうぜ、なんの夢を見たんだ夢見! オーイ、勝手に寝るな、 なんだよ、これじゃあ不眠症になっちゃうよ、眠れねぇー、そうだビールでも飲もう・・・・・・・眠くなってきたな、さあ寝よ・・・・・・・・」
 再び皆は深い眠りについたはずであったが・・・・・。


参 夢の旅人 〈罪深き者〉につづく


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