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-novels space-

- 夢見妙 -
yumemimyou


第一章   変貌


・・・三 夢の旅人・・・

〈罪深き者〉

  ここは、ニューヨークのとある古びたアパートの一室である。
「あっ! 誰だお前は?」
彼の名は窪田丈二、留学のためニューヨークに来てすでに三年の月日がたつ。彼はこのアパートの三階の一室に住んでいる。
窪田が振り向くと、そこに見知らぬ男が立っていた。いつからそこに居たのであろう、突如現れたとしか思えぬその男に窪田は驚き動揺を隠せない。
「なっ、なんの用だ、どっ、どこから入ってきた!」
 そこには目を虚ろにした百九十はありそうな大柄な黒人の男が立っていた。しかし、その男はなにも言わず、意識は遠くに飛んでいるかのようで、ただこちらの方を凝視したまま近づいてくる。
 恐怖と驚きのあまり、とっさにその男の両腕をつかみ、窓際まで押しやった。
窪田は多少なりとも武術の心得があった。男はなんの抵抗もせず、窓から上半身を押し出され、次の瞬間、ダダダダーと、大きな音を立て転げ落ちた。
「えっ! 落としてしまったのか? 大変だ!」
 窪田は何が起こったのかも、半信半疑で、ただ青ざめ呆然と立ち尽くしていた。
「俺のせいじゃない、俺のせいじゃない、俺はなんにも悪くない、あいつが勝手に落ちたんだ、俺じゃない」
 窪田は必死で自分に言い聞かせていた。
「待てよ、まだ落ちたとは限らないぞ、ひょっとしたら屋根の上に居るのかもしれない」
 窓の外を覗こうとしたのだが。
「もし居なかったらどうする、それに居たとしてもやはりどうしたら良いんだ? 大体あいつは何者なんだ? どうして俺の部屋に居たんだ? どうしたら良いんだ?」
 しばらく考えあぐねた末。
「まだ外ではなんの変化もないし、落ちたのなら、人が集まってきて騒ぎ始めるはずだし、騒いでいないと言う事は、あの男は落ちていないと言う事かもしれない。大体この部屋に現れたのだって、どこからともなく突然だったし、きっとまた突然消えたのかもしれないな、そうだ、そうに違いない、ちょっと覗いてみるか」
 窪田は、恐る恐る窓から顔を出し外を覗いてみた。
「んっ! どこにも居ないか?」
 窓の下辺りに軒と言おうか、ひさしが一メートルほど突き出している。そのひさしの端を見たとき思わず凝視してしまった。
「なんだあれは、靴の底か? まさか!」
 ケーブルなどをつなぐフックにズボンの裾が引っ掛かっているのである。それは今にも切り裂けてしまいそうだ。
「どうしよう!」
 男はフックに引っ掛かり逆さ吊りになった状態で、今にも落ちそうなのだ。
「もし落ちればただでは済まないぞ、ここは三階だし、打ち所が悪ければ十分命を落とす高さだ、なんと言う事だ、俺が突き飛ばしたからなのか? やはり俺のせいなのか! 早く何とかしないと落ちてしまう、どうしよう?」
 彼はうろたえながらも必死で考えようとした。
「警察に電話か? 消防署か! いったいどうしたら良いのだ!」
 方向を見失った熊のように、部屋中をただウロウロと歩き回る。
「そうだ! なにも知らなかった事にしよう。泥棒が勝手に、ひさしの上を歩いていて足を踏み外したって言う事にして、でもなぜ気が付かなかったのかって聞かれるかもな、なぜ助けなかったって言われても困るし、まったく気が付かなかったって、押し通せばいいか。待てよ、ひょっとしたら、これは俺を脅かそうとしてやっているのかもしれないぞ、素人を脅かすドッキリって言うのもあるし、そうだそれに違いない、今ごろはきっとどこかへ行ってしまったかもしれないな、その証拠に、未だに外は何も騒いでいないではないか、そうだそうに決まっている、俺にはなんの責任もないんだ、そうだ、そうだ」
 窪田は一人勝手な解釈をして、現実逃避をしていた。その時である。
「うわぁー! 落ちたー! 大変だー! 救急車を呼べ! 死んでいるのか?」
 大きな叫び声が外から飛びこんできた。
「まさか!」窪田の心臓の鼓動が急に激しくなった。
 外がガヤガヤと野次馬で騒がしくなってきている様である事は感じられた。
「窓から覗いて、もし誰かに見られて俺がやったのかと疑られてもヤバイし、しかし実際どうなっているのか知りたいのだけれど、どうしたら良いのだ」
 窪田は再び考え込んでしまった。
「あの男は、やはり落ちて死んだのかもしれない、大変だ、殺人罪になってしまう、もし警察が聞きに来たらどうしよう、俺が窓から押し出した為に落ちたのだとバレてしまったら、俺は捕まるのか、いやだ! 俺が悪いんじゃない、部屋に突然入って来た、あいつがいけないんだ」
 窪田は、なんとか自分自身を正当化しようと考えを巡らす。
「でも逆さ吊りになっているのを助けもしなかったのだから、やはり俺は大変な事をしてしまったのか? いや俺だけじゃない、誰だってあの状況では助ける事なんかできっこない、でももし勘ぐられたらどうしよう」
 考えだけが膨らんでゆく。
「調べられれば、この階から落ちた事は、分かってしまうだろう、そうすれば、必ず俺のところに聞きに来る。もしも、男の身体に俺が腕を掴んだ時の何か証拠になるものが残っていたらどうしよう、いや! もしかしたらあの男は、俺を陥れようと何かメモのようなものを残しているのかもしれない・・・・・。もうお終いだ!」
 今はもう、少しの望みもなくなり、絶望感に打ちひしがれていた。
「逃げよう! しかし今逃げたら、かえって怪しまれるし。それに突然何日もいなくなったら、私が犯人ですと言っているようなものだ。しかしこのままでは時間の問題だ、警察は必ず来る。何も知らなかったような顔が俺にできるか? いや俺は昔からあがり症で、それに加えて対人赤面症ときている、どう考えてもぎこちなくなってしまうに違いない。指先は震え、舌は回らなくなってしまうだろう、それに加えて、どもってしまったひにゃあ、どうしたらいいんだ、あまり何も知らなかったと言うのも不自然だし、かと言って下に見に行って何か聞かれたら、どうしたら良いのか分からなくなってしまいそうだし、どうしたらいいんだ」
 考えれば考えるほど落ち込んでゆき、どうしようもなく、ただ途方にくれた。彼は壁にもたれ掛かりしゃがみこみ、両の手で頭を抱え込んだまま身動き一つしなかった。いつしか時は経ち、朝が訪れた。
「ビィー、ビィー、ドン、ドン、ドン」ブザーとドアを叩く音で目を覚ました。
「んっ! 誰だろう? こんな所で寝てしまったのか、もう朝か・・・そうだ! 大変な事をしてしまったんだ、逃げなくては・・・誰だろう? 警察かな、どうしたら良いのだ!」
「警察ですが少々お聞きしたい事があるのですが、窪田さん、いらっしゃいますか? すいません、居りましたら、ドアを開けて下さい。ドン、ドン、ドン」
「もうだめだ、ドアを開けるしかない」
 その後窪田は殺人容疑で捕まった。ニューヨークという事と言葉の不自由さも加わり、裁判は彼にとって不利な方向へと傾き、陪審員の判決は有罪となってしまった。何年かの刑を済ませ、出所してからの彼の行動は、以前より増して闇の人間へと駈りたてた。彼はありとあらゆる闇の悪事に手を染め、いつしか彼は人間としてのあり方を見失っていった。彼は薬による精神錯乱をおこし、日本の、ある闇組織が運営する、研究施設に入れられモルモットとして、ある研究の材料にされていたのであった。
ある研究とは?――――――――――――――――・・・・・・・・・・。

四 夢の旅人  〈異変の兆し〉につづく


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