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-novels space-

- 夢見妙 -
yumemimyou


第一章   変貌


・・・六 夢の旅人・・・

〈時を越えて〉

  「あーあ、良く寝た、あっ! もうこんな時間だ、今日は日曜日だから誰も起こしてくれなかったんだ、大変だ、友達との約束に遅れちゃうよ、急がなくちゃ、行って来るね!」
 彼は小学校六年生、今日は友達三人と映画に行く約束をしていた。取る物も取りあえず、慌てて玄関を飛び出し、自転車に乗り先を急いだ。
「ギリギリ間に合うかな? ちょっと無理か、よし! フルスピードだ!」
十一時に映画館の前で待ち合わせである。駅にして一駅ほど離れている。自転車で二十分と言ったところであろうか、彼は必死にペダルをこいでたどり着いた。
「オウ、やっと来たか、何してたんだよ、十分遅れだぞ、後でジュースおごれよな」
「十分ぐらい良いじゃないか」
「良かないよリュウちゃんはいつも遅刻をするんだからな、たまにはちゃんと来いよ」
「二人でそんなにごちゃごちゃ言うなよ、早く映画を見ようよ」
「まあ良いか,いつもの事だから」
「さあ、入ろう!」
「僕は何を買って入ろかな」
「おれはポップコーンにしよう」
「それじゃあ僕も」
「おれも」
「なんだ皆同じか、それとオレンジジュース」
「僕も、亮太もオレンジジュースだよな」
「おれコーヒー牛乳」
「コーヒー牛乳? やめろよそんなの」
「それじゃあオレンジジュースで良いよ」
「そうだよ、そうしろよ」
「それじゃあ、中に入って席を取ろうぜ」
「まだ少し空いているな」
「だから午前中にしたんだよ、夢ちゃん分かったか?」
「そんな偉そうに言うなよ、もやし君」
「ちゃんと林って言え」
「わかったよ、もやし」
「もう良いよ、なんでも」
そして、三人は映画を見終わり外に出てきた。
「すごかったなあ、モスラ」
「すごいよな、東京タワーに繭を作っちゃうんだぜ」
「おれは加山雄三のエレキの若大将の方がおもしろかったな」
「亮太もか? 僕もあの映画おもしろかったよ、エレキギター格好いいよな」
「龍生もそう思うか、やりたいよな、中学になったら絶対にやるんだ。一緒にやろうな」
三人は映画の話しに盛り上がって、そのあと、模型店に立ち寄り長いこと遊んでいた。
「もう夕方になっちゃったよ、早いな」
「あっ! 早く家に帰らないと、おもしろいテレビを見逃しちゃうよ」
「途中まで一緒に帰ろう」
途中で二人と別れ龍生は一人自転車に乗り家路を急いだ。
「アレ、なんか変だな、道を間違えている訳は無いんだけれどもな、でも違うな、大丈夫かな? ほんとに家に帰れるんだろうな」
 龍生は不安に思い始めた。いつも見なれた所なのに、なぜか始めて来たような、これから何処へ行ってしまうのだろうかと、心細くさえ思えた。
「ヤッパ違う、これは現実なのかな、なんか風景が生きてないみたいだ、なんなのだろう、この感じは、なんでもいいから早く家に帰ろう、何なんだよ、冗談じゃないよオー」
 夕方だと言うのに人影を見ることも無く、まるでゴーストタウンにでも迷い込んだかのように町はシーンと静まり返っていた。
「やっぱり様子がおかしいぞ、どうしちゃったんだろう? そう言えばさっきから走っている家並みがいつもの道のはずなんだけど、なんか違うな、いつまでたっても家に着かないよ、道でも間違えたのかな? そんなはずは無いよな」
龍生少年はあせり出した。辺りはかなり暗くなり、しかも街灯も家の明かりもついていない。
「なんでこんなに暗いんだろう、怖いなあ、お化けなんか出ないだろうな、急ごうって言ってもちょっと疲れてきたな、帰りは上り坂だからな、行きはペダルをこがなくっても進むぐらいなんだけどな」
彼の頼りは、唯一自転車のライトだけだ、あとは風を切る音だけが耳につく、そのときである。
ウォーオー! ギャウォーオー! ウーウー!
「なんだろう! 犬の遠吠えかな? 気味悪いな、こんな時に! なんだか冷え込んできたみたいだな、背筋がゾクゾクするよ」
突如周りの様子に異変が起こった。
「なんだろう、急に霧が立ち込めてきたよ、何なんだよ、ただでさえ暗くて周りが見にくいのに霧まで出てきたんじゃ、ほとんど何も見えないな、これじゃあ自転車で走るのは危険だな、降りて歩こう、でも、なんかいやな感じがするな、何にも無ければ良いんだけれど」
 ザァー、ザァー、ズン、ズン、ウー、ウー、ズン、ズン、
「なんの音だろう? んっ! あれは?」
 赤く光る点が幾つも霧の中に浮かび上がる。
「赤いライトを持った人たちが大勢来たのかな? きっと皆心配して探しに来たんだ。オーイここだよ!」
 彼は手を振って知らせようとした。徐々に霧の中より赤く光るライトの人々が現れてきた。
「なんだこれは、人間じゃない、化け物だ! たすけてー! 誰かたすけて! 化け物が出た!」
 身体のあちこちが溶けると言うか崩れ始めたような、目は赤く光り、かつて人間であったろう怪物が次から次へと霧の中より現れてきたのである。中には腐りかけた犬のようなモノもいる。
「ウワーァ!」
彼は自転車を怪物にぶつけるように放り投げ、先ほど来た道を慌てふためきながら逃げ戻ろうとしたのだが足が思うように動いてくれず転んでしまった。
「ウワアーッ! 殺される! どうしよう、逃げなくちゃ、ウワアーッ! もうダメだ!」
 怪物は次から次へと覆い被さるように少年に倒れ掛かっていった。
辺り一面死臭というか、異臭が立ち込めていた。この世とも思えぬ光景は、まさに地獄絵であった。
そのドロッとした感触、そして鼻を覆いたいほどの異臭、彼はかすかな意識の中、声ともつかない声で言った。
「誰かたすけてぇ! ・・・」
 彼の意識が途切れたとき、突如それは起こった。
 それはタイムトンネルとでも言ったような、限りなく続く光のスパイラルホール、眩いほどの光の流れ、薄れ行く意識の中、彼は確かに見ていたのであった。
「なんだろうこの光の流れは、何処へ飛んで行くんだろう、ぼくは? 死ぬのか!」
 どれほどの時が経ったであろう、我に返ったとき、彼は見知らぬ所にいた。
「ここは何処だろう? 僕はどうなったんだ? 誰の家にいるんだ?」
 そこは板の間だけのちょっと洋風な、古びた一軒家であった。
「何でこんな家に来てしまったんだろう? 誰か居ないのかな。 絵がいっぱいあるけど大きな絵だな! 誰が描いたんだろう? 絵描きさんの家なのかな? 戸があるな、向こうにも部屋があるみたいだぞ、こっちの扉は何があるのかな? 押入れかな? ちょっと開けてみよう」
 龍生少年は小さな時から絵や工作が好きで毎日のように描いたり作ったりしているので、この部屋に非常に興味をそそられたのであった。
「何だろうこの機械は? あっ! そうか、これが写真の現像をする機械か、じゃあこれが暗室なんだ、やってみたいな、明かりを点けて良く見てみようかな、でも見つかったらまずいかな、かなり外も暗くなって来たし、なんだか怖くなってきたな、どうしよう、他の部屋にも行ってみようかな、よし!」
 彼はその部屋を出て二十畳はありそうな居間風な部屋を抜け向かい側にあった戸を開けてみた。
「アメリカか、どっか他の外国の家みたいだな、本当にここは何処なんだろう?」
 彼はその後も部屋中をうろつきまわっていた。その時である、台所の横にある古びた扉が不意に開き、男の怒鳴り声が聞こえた。
「コラー! そこに居るのは誰だ、わかってんだぞ、隠れたって無駄だ、立ち去りなさい」
 龍生少年は、飛び上がるほど驚き、慌てて最初の部屋のベッドの下に隠れた。
「オ、オイ、竜崎、おまえ誰に向かって言ってんだ」「誰か居たのか?」
「いやまだ居ない」
「なんだよ、まだ居ないとは、居たら大変だろう、だいたい、何んで、いきなり大声を張り上げているんだよ、竜崎はよ。驚かすんじゃねーよ、バーカ」
「いや、ちょっと怖かったんでさ、もし誰かが居たとしても、脅かしておけば居なくなるかなと思ってさ」
「バカやろう、こっちが驚くじゃないか」
「あっ! 今なんか人の影らしきものが、リュウちゃんの部屋のほうに行ったんじゃないか?」
「オイ、よせよ、怖いこと言うなよ、またジーンの冗談が」
 龍生少年は、ベッドの下で震えながら息をこらえ、じっと男たちの会話に耳を傾けていた。
「薄暗いな、そうだ明かりを点けなきゃ、どうもさっきから暗いなとは思っていたんだ」
 男の一人が居間の明かりを点けに行った。
「ヤバイ! この部屋の明かりを点けられたら見つかってしまう、どうしよう」龍生少年は、なるたけ奥の隅に隠れようと身体をずらすも、たいして移動も出来ず、ただホコリがたつだけである。
「誰も居ないぞ」男の一人が素早く部屋の明かりを点ける。男は慎重に部屋の隅々まで見渡し、恐る恐る部屋に入りベッドの方へと歩いてきた。
「どうしよう、こっちに来るよ、見つかったら大変だ」こちらに来る男の足元だけが見える。男はいきなりベッドの下を覗いた。
「ウワーッ!」喉まで出掛かった声を、グット堪えて、目を見開いたまま、喉の奥で叫んだ。彼の身体は硬直したまま身動きも取れぬ、しばらくその姿勢でいた。
「エっ! あれ! 見付からなかったのかな、良かった」
男は、ざっとベッドの下を見まわし、そこから離れて行き、イーゼルに立てかけてある百号のキャンバスの裏、それとカーテンの端をつまみ勢いよく捲し上げる。
「誰も居ないな」最後に部屋の隅に作った現像用暗室の扉をゆっくりと開けて覗いていると、もう一人の男が彼の後ろにソット近づいていった。次の瞬間。
「ウワアー! なんだ! なんだ!」覗き込んでいた男が突然叫んだ。
「リュウちゃん、ビックリした?」男が聞いた。
「気持ち悪いな何すんだよ! 早く取り除いてくれよ、ふざけんなよ!」
「ただの濡れた台所のスポンジだって、冗談冗談」
「いつのまに、そんなものを持っていたんだ、いいかげんにしろよ」
「そんな怒るなって、ちょっと冗談をしただけなんだから、リュウちゃんはすぐに本気で怒るんだから困るんだよな」
「リュウちゃん? 僕と同じ呼び名だ」龍生少年は思った。
「あっ! いまそこに何かが!」暗室のところで、先ほどから悪ふざけのように脅かしていた男が声を張り上げた。
「エっ!」龍生少年とリュウちゃんと呼ばれている男も同時に叫んだ。
「どこ、どこに何が! 何にも居ないじゃないか、あんまり驚かすな」リュウちゃんと呼ばれている男が少々怒り気味に言った。
「いや、なんか居たかなっと思ってさ」
「おまへ、また冗談か、いいかげんにしろ」
「さあ、もういいや、何にも無かったから、また食事の続きをしよう、オーイ! ベンソン戻るぞ」
「オウ、わかった、こっちも何もいないよ」
男たちが部屋から出ていったのを確認して、龍生少年はベッドの下から這い出て部屋を出て居間の椅子の陰から男たちの様子をっていた。
「何処かに出かけるみたいだな、悪い人達じゃあ、なさそうだけど・・・」最後の男が、部屋を出ようとしたのを見て、龍生少年はホット安心をして、椅子の影から出た、そのときである、その男は扉を閉める寸前、いきなりこちらを振り向いたのだ。
「ウワっ! 見付かる、隠れなくっちゃ」龍生少年は、慌てて先ほどの部屋に駆け込んだ。
「あっ、なんだ! 今なんか動いたぞ」男がまた叫んだ。
「オイオイ、またかよ、何回やれば気が済むんだよ、いいかげんにしろよな」
「そうじゃないよ、今度は本当に見たんだ、本当さ、何かが、サッと動いたんだよ、ウソじゃないよ、信じないのか? まっいいさ、ほんとなんだもんねぇ」扉を閉める音が聞こえた。そして、その音を最後に三人の男はいなくなった。
「行っちゃったみたいだな、見付からなくて良かった、もうだめかと思った。でも、なんだかやさしそうなお兄さん達だったみたいだな、だけどここは何処なのかな、僕はどうしたら良いんだろう」
 龍生少年は途方にくれながらも、好奇心のままに部屋中を見て歩いた。
「それにしても色々な絵があるな、ローマ字で名前が書いてあるな、えーと、Yumemi Ryuseiか、あれ! 僕と同じ名前だ、うそ! 不思議な事もあるな、偶然にしても、ちょっとビックリだよな、他になんか無いかな」龍生少年は、スケッチブックや本棚などをむさぼり見た。
「さっきの機械で引き伸ばしたのかな? モノクロ写真がいっぱいあるな、これは絵を描くための資料か、あっ! アルバムだ、これはさっきの人達だな、ふざけたことしてる写真ばっかりだな、この人が僕と同じ名前の龍生さんかな? なんか似ているな、ヤッパ名前が同じだけあって似ているのかな、この古いアルバムは、どんなのが入っているのかな、このアルバム僕のと同じデザインだな・・・・・あれ! なんで?」
龍生少年がそこに見たものは、なんと彼自身の写真であった。
「これも、これも、この写真も僕の写真じゃないか、どうしてここにあるんだ、あの人は誰なんだ? ここは何処なんだよ!」すでに外は暗くなり、夜を迎えようとしていた。
「あっ! あの人達が帰ってきたみたいだ、どうしよう、隠れなくっちゃ、そうだ現像室に隠れよう、真っ暗でなんか酢のような臭いがするな、ちょっと怖いけど、仕方ないか」   
龍生少年は、だんだんと心細くなって来た。
「食った、食った、もう食べられないよ」
「もう食べなくて良いよ、誰もそれ以上食えとは言わないしさ、それにしても竜崎は細い身体なのによく食うよな、でも結構うまかったよな」
「リュウちゃんはビールばかり飲んであまり料理を食べていないんじゃないか?」
「そんなこと無いよ、少しは食べたよ、ジーンだって、ビールばかり飲んでいたぞ」
「そんな事はどうでも良いんだけど、それにしても、ミセス・ロビンソンは顔は悪いけど、意外と料理はうまかったな」
「あっ、言いつけてやろ、竜崎がミセス・ロビンソンの悪口を言ってたって」
「ミセス・ロビンソン! ベンソンがあんたの顔は悪いって言ってますよ!」
「バカやめろ、聞こえたらどうするんだよ、そんなでかい声で言うな! 知念」
「冗談、冗談」
「まったく、知念は怖いよ」
「んっ、ベンソン黙れ、静かにしろ」
「どうしたんだ! 知念」
「今、なんか聞こえなかったか?」
「あっ! 今、僕の部屋の方から、物音がした」
「脅かすなよお前ら、ワシは何も聞こえなかったぞ、また二人で冗談か?」
「シィっ、なんか居るぞ、確かにリュウちゃんの部屋だな、リュウちゃん、ちょっと見に行ってみな」
「えっ、一人で行くの? 皆で行こうよ」
「仕方ないな、ベンソン君、付いて行ってやりなさい」
「付いて行ってやりなさい、じゃなくてお前もこいよ」
「それじゃあ、三人で行くか、リュウちゃん先に行けよ」三人は恐る恐る部屋の戸を開けて覗き込んだ。そのころ現像室の中では。
「うわぁあ! たっ、たすけてー!」押しつぶしたような叫び声を上げ、龍生少年は、眼前に繰り広げられた、その信じられぬ情景におののき、意識を失いかけていた。
「リュウちゃん、今変な声が聞こえなかったか?」
「聞こえた、暗室の中から、なんか叫び声のような」二人は顔を見合わせた。
「おいおい、冗談じゃないぞ、ワシはやだよ、もう」
「うわぁーぁー・・・・」
 暗闇の中に怪しく光る光の渦、青白くそして赤く光る二つの点、いきなり何かに腕を捕まれる、ぬるっとした気色の悪い感触が全身の毛穴を立たせる。龍生少年は、遠い意識の中、闇の中へとひき込まれて行くのを感じていた。
「だれかたすけてーぇー・・・・・」声はかき消されていった。
「誰かが助けを呼んでいたみたいだぞ、リュウちゃん開けてみな」
「えっ! まさか、どうして暗室の中から助けを呼ぶんだよ、そんな事有り得ないよ」
「いいから開けてみないとわからないだろうが」
「わかったよ、開けるぞ、いいか、そら! どう? 誰か居る?」
「誰も居ないようだな、明かりを点けてみな」
「その辺の機材が倒れているぞ、やっぱり、何かが居たんじゃないか、この部屋、なんかおかしいよな」
「どう、おかしいんだよ」
「ひょっとしたら、他の世界に通じているんじゃないか」
「そんな恐ろしいこと言うなよ、SFじゃあ、あるまいし」
「まあ、そうな、そんな事あるわけないか、それにしてもさっきの声は何だったんだろうな・・・・・・・・・・・・」

七 夢の旅人  〈霊界での試練〉につづく


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