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- 夢見妙 -
yumemimyou

第一章  変貌


・・・八  夢の共同生活・・・


 
「リュウちゃん、その事はいいからさ、早く荷物を運び込もうぜ」
「そんなこと言ったって、竜崎の奴、汚すぎるよ、勝手に部屋を決めちゃうなんて」
「しょうがないさ、もう荷物を運び込んでしまったんだからさ、また出せって言うのもな」
「それはそうだけど、でもな」
「またそのうち部屋を変えればいいさ」
「それもそうか、順番にそれぞれの部屋に入るようにローテーションすればいいのか」
「そうだよ、わかったなら、早く運ぼうぜ、グズグズしてると日が暮れちゃうからさ、二番目に広い部屋に入っていいからさ」
「いいのかジーン?」
「いいさ」二人は、昨日まで住んでいた、池袋のアパートから運んできた、軽のトラックに山盛りになるほど荷台に積み上げた二人分の荷物を、せっせと部屋に運び込んだ。
「やっと終わった。ちょっと疲れたな、一休みしようか、ジーン、なんか飲みたくないか?」
「そうだな、何かって言っても、ここには何もないしな」
「買い物にでも行こうか?」
「おう、そうだな・・・ベンソン!」
「なんか言った?」ベンが荷物を運び込んだ部屋から出てきた。
「買い物に行かないか?」
「行く! それはともかく、凄いよな、風呂付き、シャワー付き、庭付き、しかも部屋が四つもあるなんてな、一軒家だぜ、ワシなんかこの間まで、新聞配達の下宿寮だもんな、夢みたいだよ、ホント誘ってくれて感謝しているよ、ありがとう」
「感謝しているわりには、汚い事するな、勝手に広い部屋を取ったりしてさ」
「えっ! 早いもの勝ちじゃあないの?」
「そんな訳ないだろう、勝手な奴だな」
「まあまあ、リュウちゃんそのくらいでいいだろ、許してやれよ、ベンソンだって悪気があってやった訳じゃあないんだからさ、仲良くやろうぜ」
「悪気があってやっていたら、許さないよ」
「ベンソンもちょっとは謝った方がいいんじゃないかな」
「うん、ゴメン」
「もういいよ」
「さあ、それでは町の探索に行くとするかな、諸君」
「もう行くんだ、と言うか、お前は隊長か!」
「何を言っているんだね、ベンソン君は、さあ出発進行」そう言って、竜人は玄関を出ていった。
「ちょっと待てよ、今カギを掛けるから」
「早くしたまえ、龍生君」
「なに急に、偉そうにしているんだ、ジーンは」
「隊長と呼び給え、隊長と」
「なにが隊長だよ、なあ、竜崎」
「本当だよ、勝手にリーダーになるなよ、知念」
「そんな本気で、二人して怒ることはないさぁ、冗談だよ、冗談、君たちは冗談も分からんのか」
「冗談なら冗談って言えよ、ジーン」
「そんな、冗談ですって言って冗談言う奴いないだろ」
「そりゃそうだ」ベンも納得する。
「そんな事どうでもいいよ、それより、どっちの方向に行こうか?」
「リュウちゃん、どうでもいい事はないだろ・・・まあ、どうでもいいんだけれどもさ・・・それじゃあベンソン、罰として、偵察に行って来たまえ」
「ちょっと待てよ、なにが罰なんだよ」
「さっき部屋のことで助けてあげたじゃないか、それとも、私も怒ったほうがいいのかな」
「いやな言い方するな、わかったよ、行けばいいんだろ、行けば、エーと、どっちに行けばいいのかな?」
「右の方に行くと広い道路が見えるから、そっちに行ってみれば」
「そうだな、わかった、行ってくる」ベンは足早に立ち去った。
「オーイ、こっち、こっち」
「ベンソンが手を振って叫んでいるようだな」
「行ってみようよ」二人はベンのいる広い道路に急いだ。
「なにかあったのか?」
「いや、そこのタバコ屋のおばさんに、お店のあるところを聞いたんだけれど」
「ベンソンよくやった、それで?」
「この通りをまっすぐに行って踏み切りを渡り、しばらく行くと右側に大きいスーパーがあるらしい、それと、この路地を入っていくと、その先に、大きな市場のような商店街があるって言っていた。そこはいろんな店があるみたいだ、ほかにも反対方向に行くと」
「もういいよ、ベンソンご苦労、まず、市場みたいな所に行ってみるか」市場に着いてみると、そこには通路を挟んで左右にいろんな店が連なっていた。
「いろいろなものが売っていて、楽しいな。ジーン、ここでなんでも揃いそうだね」三人は食料のほかにもいろいろなものを買い込んでハウスに向かった。
「これでなんとか今晩の食料は揃ったな、まだこれからいろいろとしなければならない事があるぞ、なあ、リュウちゃん」
「そうだね、そういえば冷蔵庫がなかったね、冷やして置けないと困るな、明日にでも知り合いの電気屋で中古の冷蔵庫を手に入れよう。あと今日中に、寝るスペースを作らないと、眠れないと困るからね」
「そういえば、ハウスは全部板の間だよな、ベッドが必要だな、床に直に寝るっていうのもなんだしな」ベンが気付く。
「そうか、ついでに実家からフランスベッドを持ってこよう」
「リュウちゃんはいいな、実家に行けばあるからな、俺も何とかしないとな」
「ワシは酒屋に行ってビールケースを譲ってもらおうかな、その上にベニヤ板を載せて、ベッドにするよ」
「俺もそうしよう」
「エーと、カギを開けないと、あった、あった」龍生がポケットをまさぐっていると。
「リュウちゃん、そのカギ皆で使わないといけないから、ポストの裏にでも隠しておけば」
「あっそうだね、ここでいいか? 皆覚えた? ここだから」
 先ほどから、玄関の前での三人のやり取りを見ていた隣のおばさんが声を掛けてきた。
「あんたら、こんどここに引っ越してきた連中かい?」
「あっ、ハイ、連中と言うか、まあ、そうですけど、なにか?」龍生は多少驚きの表情で答えた。
「いや、なにね、あたしは裏庭を挟んだ隣に住んでいるものなんだけれどもね」
「あっ、そうですか、どうも、よろしくお願いします」まずは龍生が挨拶をした。
「隣ってそこ? あっち? あっ、そっちか。今日から引っ越してきたんで、よろしくね」つぎに竜人が親しげに挨拶をした。
「あっ、どうも」最後に竜崎が会釈をして。
「あんたら学生かい? なに学んでいるんだい?」
「美術学校に通っています。専攻は主に絵画ですが、油絵を中心に西洋の古典技法を学んでいます」龍生が答える。
「絵画かい、それじゃあ、将来は画家になるんだね、そうかい」
「あのぅ、ご家族で住んでいるんですか?」龍生が聞く。
「あたしかい? ご家族って言うほどのことでもないけれど、一応、旦那ともうすぐ三歳になる愛娘の三人家族さ、旦那は、米軍の軍曹なんだよ、立川の基地に勤めているんだけれどもね。名前はボブ・ロビンソンって言うんだけれどもね、当然アメリカ人だよ、愛娘のシェリーはホント、かわいいんだよ、あたしに似ずにね・・・言われる前に先に言っとくよ」
「それじゃあ、ミセス・ロビンソンっていうわけだね」
「まあ、そう言うことだね、お前名前は?」
「知念」
「知念かい、あんたは?」
「夢見です」「夢見か、それでそっちは」
「竜崎です よろしく」
「忙しい所を足止めさせて悪かったね、シェリーがそろそろ起きるころだから行くよ・・・なんかあったら遠慮なく言いな、それじゃあね」その後姿は、とても女性とは思えなかった。
「怖そうなおばさんだな、あんなのが隣にいるのかよ」
「ベンソンあんまり変なこと言わんほうがいいぞ、誰が聞いているか、わからんからな」
「そうだよ竜崎、あの人そんなに悪い人じゃあ、なさそうだよ、見てくれは怖そうだけれど、親切そうな人だよ。近所の人とは仲良くやらないとダメだよ」
「わかったよ、二人で責める事ないだろう」
 その時ミセス・ロビンソンが急に戻ってきた。
「あっそうだ、言い忘れたんだけれどもね、あんた等、電話はまだないんだろ、もし使うのなら、うちのを使っていいからね、言うことはそれだけだ、それじゃあね」
「あっ、ビックリした。聞かれたかな、ワシの言ったこと」
「だから気を付けろって言ったんだよ、バカだなベンソンは」
「竜崎、もし聞かれたとしてもしょうがないよ、怒られるだけだから、君だけがね」
「なんだぁ、変なこと言うな夢見は、ちきしょう」
「さあ、食事でもしながら、これから始まる共同生活のための約束事でも決めようか?」
「そうだね、ジーンはそういう事を決めるのは得意なのか?」
「まあ規律なんかを決めるのは得意さ」
「なんかボーイスカウトとか自衛隊みたいだな」ベンが言う。
「共同生活には決まりが必要なのさ、そういう事をきちんとしないから直ぐに喧嘩別れしてしまうのさ、わかるかな、君たち」
 三人はいろいろなアイデアを出し合って、いくつかの項目を決めた。




 
第一、 米、その他の共同で使うものに関しては、共同購入のための貯金箱を設ける。三人で出し合って毎月積み立てておく。
第二、 掃除は得点制にして、格掃除の種類によって得点票を設け、それをもとにグラフ化する。各自作業を行なった場合、そこに印をつける。あくまでも自己申告である。一ヶ月間でポイントの少ない準にペナルティーとしてお金を払う。※注意・ズルのないように。
第三、 部屋決めは、十ヶ月に一回、ローテーションをして、不公平のないようにする。
第四、 その他、なにか希望がある場合三人の相談によって決める。
第五、 最後に、基本として、ハウスメンバーからの脱退は許されない。
                          以上。                           


 こうして三人による、ハウスでの共同生活が始まった。
三人はこれからはじまるハウスでの共同生活に夢を膨らませていた。しかし、そこに待ちうけている怪しげな存在など知る由も無かった。


第二章 壱  あれが噂のミセス・ロビンソンにつづく

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