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第二章 ミセス・ロビンソン


・・・参  ミセス・ロビンソン危機一髪・・・


 またまた日も変わって今日も同じメンバーで、夜遅くまで飲んでいた。
 そのとき、例のごとく裏庭のドアをたたくものあり、その名はミセス・ロビンソン。
〈勝手知ったる他人のドア? そうドンドンたたくなっちゅうの、壊れたらどうするの、もう壊れているか〉余談。
「オイ、みんな居るのかい、これからいい所に連れてってやるから行かないかい」 今夜もまた例のドスの効いた、女とは思えぬ恐怖の声が聞こえる。
 今日はすぐ近くの飲み屋に行っておごってくれるとの事なのでみんな気を良くしてついて行くことにした。
「春だって言うのに今日はチョット冷え込むから、座敷で一杯なんて好いだろ? 付いておいで!」 その飲み屋はハウスから歩いて十分とかからない所にあった。  飲み屋に入ると八人ほどが座れるカウンターの席と右の奥には八畳ほどの座敷がある。 五人ほどの労務者風の客が奥座敷で飲んでいるだけで他に客は居ない。
「なんだい、座敷は先客がいるのかい、残念だねェ」 ミセス・ロビンソンを含め我々七人はカウンターにズラリと並んで座り、みんなそれぞれに飲みたいものを注文した。 奥座敷の連中がだいぶ飲んでいるらしく騒がしい。
「あんたらえらくご機嫌だね! 何かいい事でもあったんかい?」
「いい事がなきゃあ、機嫌よくしちゃあいけねえのか、このヤロウ」
「ああ、酔っ払いはやだねェ・・・あんたらだいぶ酔っているようだね、ソロソロ御開きにしたらどうなんだい」ミセス・ロビンソンが口火を切る。
「大きな御世話だ、テメエにそんなことを言われる筋合いはねえ」
「おおそうかい、このドアホウが」 先ほどから何かと彼らの言動に腹を立てているようである。時折彼らがトイレに行く為にカウンターの横を通り過ぎる時に何やら二言三言、言葉を交わしている。 時々ミセス・ロビンソンは奥の連中と話をしているようであるが、ミセス・ロビンソンは彼らを気持ち良くは思っていなかったことは確かである。 そのことは言葉の端々に伺える。どちらかと言えばバカにした態度のようであった。 彼女としては奥の座敷を占領して我が物顔に騒いでいる労務者風の連中が我慢できなかったのかもしれない。 また、多少彼らもミセス・ロビンソンを含め我々に、からかい半分のことを言ったこともあったのからかもしれないが。
 そして事件は起こった。 言葉の成り行きであった。
「労務者風情が座敷で酒を飲んでいい気になってんじゃないよ!」 この言葉は決定打となった。
「何だとこの野郎! さっきからおとなしく聞いてりゃいい気になりやがってこのアマ」
「何だい! いい気になっているのは、てめぇ等の方じゃねぇか、女だからってなめんじゃないよ!」
「何をこの野郎!」 男たちの中のひとりが怒鳴った。しかし彼女は追い討ちをかけるように啖呵をきった。
「そんな所でガタガタ言ってんじゃないよ、言いたいことがあるんなら外に出な、話をつけてやろうじゃないか」
「何だと、上等じゃあねえか」 その男は彼女めがけて座敷から駆け下りて来てカウンターの所で顔をつきつけ、二、三言、言葉を交わしたと思いきや、 カウンターの上に置いてあったビール瓶をいきなり持ち、瓶の底をカウンターの角にぶつけ、ぎざぎざに割れた瓶を武器に右手にかざして、 ヤクザ映画さながら脅し構えた。店の中は喧嘩場と化し、みな総立ちになる。
「ほお、上等じゃないの」 ミセス・ロビンソンはさすが喧嘩慣れしているのか、まったく怯む様子もなく、腰のベルトを素早く抜き取り、さながら鞭のごとく持ち構えた。
 ピシ! と、一振り、威嚇をした。
「あっ! なんだ今のは」一瞬ではあったが龍生は、ミセス・ロビンソンの中にもう一人の恐ろしき姿を見たような気がした、 それはまるで、以前見たことのあるアニメで妖怪人間ベムというのがあったが、その中にベラという片手に鞭を持った女の妖怪人間が出てくる。まさにそれである。
「やってやろうじゃないの、さあ、おいで」
「ふざけたことをしやがって、このアマぶっ殺してやる」 瓶を構えて今にも襲いかかろうとしている男を、何とか止めようと、他の男たちは、座敷の方から体を乗り出して叫んでいる。 そして龍生達はと言えば、構え合っている二人を取り巻く格好で下手に手も出せず様子を伺っていた。 いきなりミセス・ロビンソンは親分さながら我々に指図し始めた。
「夢見、後ろに回って羽交い締めにしな、知念、右足を押さえな、竜崎、左足を押さえるんだ、ボヤッとしてんじゃないよ、サッサとおやり、 相手は一人だ、どうって事はないよ」
「エェ! 冗談じゃない、こんな事で、怪我でもしたらたまんないよ」と、小さく心の中でささやきながらも、どうしたらいいのかとただ成り行きを見守っていた。 他の連中も手は出さなかった。男の仲間たちも座敷から降りてきて彼の腕などをつかんで止めた。言い争いの喧嘩がしばらく続いた。佐伯がとっさに外に駆け出して行き 、近くの電話ボックスから警察に通報した。当の本人たちは、止めに入った者達を振り切って入り口に下げてある、のれんを払いのけ外に出た。



 
「さあ、これからが本番だよ!」
「ふざけた事を、やってやろうじゃねえか!」 二人は、まったくやる気である。そうこうしているうちにパトカーが横を通りかかった。先ほどの通報で来てくれたのであろう。 これで何とか助かったと思いきや車の窓越しにこちらを眺めながら、そのまま通り過ぎようとしたので、慌てて佐伯が駆け寄りパトカーを止めた。
「大変なんです、喧嘩を止めてください」と叫んだ。 だが警察官達はパトカーから降りようとはしない。仕方なくみんなで後ろのドアを開け、乗り込もうとした。
「コラ! 勝手に乗るんじゃない」 前の座席から体を乗り出して慌てて止める警察官。
「何を言ってんですか、このままだと怪我人が出ますよ」
「警察に連れて行って下さい」「何とかして下さい」「止めて下さい」「死人でも出たらどうすんですか」と、みんなで必死にお願いをするのだが、取り合ってくれない。
「怪我人でも出たのですか?」
「まだ幸いなことに怪我人も死人も出ていません。でも、出るかもしれません」
「そう言う事ではだめです。怪我人でも出たらまた連絡をしてください」と、冷たく後ろの座席から追い出され、「バタン」とドアを閉めた音が空しく響き、パトカーは暗闇の中へと走り去って行った。
「怪我人が出てからじゃ遅いじゃないか! バカやろう!、なんのための警察だ」 なんと冷たいのだ。みんなあっけに取られ、しばらくぼんやりとしていた。
 当の二人はと言えば、警察官に無視され、なんとなく拍子抜けといった感じで。
「バカバカしい、テメエなんか相手にしてられるか」と、男はビール瓶を投げ捨てた。
「バカ野郎ふざけんじゃないよ、こっちとら、てめえなんか相手にしているほど暇じゃあないんだ、一昨日おいで」と、ミセス・ロビンソンは持っていたベルトを肩にかけた。
「あぁあ、行こう 行こう、バカバカしい」と、男達は去って行った。
 その後に残った私達、やれやれである。怪我人が出なくて良かったと、ホッとする。
「オッ! いい物ひろったぞ、戦利品、戦利品」ミセス・ロビンソンは誇らしげに、先ほどの男が落としていった時計を拾い上げた。
「あのバカ時計を落としていきやがった。儲け、儲け」 とミセスロビンソンが言ったところでみんな帰路についた。
「やれやれ、転んでもただ起きないってか、疲れた、帰ろ帰ろ」
「やっぱ、あれはただの女じゃないぞ、怖えー」佐伯が引きつりぎみな顔付きで言った。
「僕は見たぞ、一瞬だったけど、本当の姿を、やっぱ、あれはただの人間じゃねえ」
「なんだよ、夢までもかよ、また変な思わせぶりな事を言って」ベンがまたかと言った口ぶりで言った。
「まあ、見間違いかもしれないけどね、なにもなければいいんだけれど」
「気になるな」
「また怖い目にでもあったら嫌だし、結構冷え込んできたから、さあ! 早く帰ろう」
「そうだな、リュウちゃん、ハウスに帰って飲みなおそうぜ」
「ミセス・ロビンソン抜きでな」
「なんか言ったかい? おまえ等」
「バカ! 竜崎、ミセス・ロビンソンは地獄耳なんだから気をつけろ」
「怖エー」


第二章 四 フタニ?につづく

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