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第二章 ミセス・ロビンソン


・・・九  恐ろしき、その姿はゴリラーマン・・・


 季節も変わりポカポカ陽気の気持ちも浮かれて来そうな初夏のある日のおそい朝。
「オイ、アレ見た!」部屋から出てきた竜人に、なぜか小声で話かける龍生。
「何を?」龍生のおかしな態度に不思議そうな顔で答える竜人。少し沖縄っぽいアクセントで。
「あのなぁ、少し前に、台所に立ったとき、何気なく窓から裏庭を眺めたらさ、何とも恐ろしいモノを見ちゃったんだよな」
「なに? 恐ろしいモノって」やはりちょっと沖縄っぽいアクセントで。
〈見たくて見たのではないのだが、なんとなく目に飛び込んできたというか、怖いもの見たさというか、なんせ見てしまったのである。夢かうつつ幻のなんて言っている場合ではない。欲求しているものと、現実とのギャップがありすぎてどうしたらいいのか、何なんだ、いい加減にしてくれ、冗談は顔だけでよしこちゃん、なんて言ってるときじゃない〉と、龍生の心の声。
〈さっきから何を言ってるんだよ、さっさと何を見たのか、はっきりさせろ〉と、どこからか聞こえる天の声。
〈聞いて驚くな、ゴリラーマンが(正確にはゴリラーウーマン)がパンツ丸出しのキャミソールっていうやつを着て、ほとんど下着状態で庭に出て洗濯物を干しているのだぞ。これは考えただけでも恐ろしい状況だよ、それを現実に見てしまったのだから怖い。わかるかなぁ、わかんねーだろうな〉
〈なんだかすごいもののようだな、一度実際に見てみないとわからんな〉
〈時々注意していれば見れるんじゃないか〉
〈あまり見たくもないな、でも、物は試しって言うもんな一度見てみるか、これってやっぱし怖いもの見たさかな〉
〈まあ、どうでもいいか〉と、この会話はみんな龍生の心の中での葛藤である。
「オイ、夢之助、オーイ、リュウちゃーん、生きてるかぁ」
「あっ、オォー、なに、どうしたの、夢之助って誰? 僕か?」
「なにボーっとしてるの、それで、何を見たのだね、伍長、報告したまえ」ミリタリー好きでみんなに階級をつけて気が向いたときに呼ぶのだ。ちなみに今呼ばれた通り、龍生は伍長で、ベンが二等兵、もちろん竜人自身は将校クラスで勝手に中尉である。だからどうしたということも別にないのだが。
「キッチンの窓から気付かれないようにそっと裏庭をのぞいてみな、まだ居ると思うよ、いいものが見えるから」
「エー、本当になにか居るんだろうな」竜人は半信半疑で偵察隊さながら、ソーと覗いて見た。
「ウーッ、なんか込み上げてきそうだ、オエッて感じ、全然いいものじゃないじゃないか。なんか、ゴーンだね。見たくもないものを見てしまったって感じだよな」何回も言いたくはないのだが、ミセス・ロビンソンは、まだ先ほどのパンティ丸出しの、きわめて短いキャミソール姿で洗濯物を干している。バケツの中の洗濯物を取るときなど、これ見よがしに身をかがめ、スキャンティの様な小さめのモノを身につけ尻丸出しといった感じだ。
「よくあの格好で外に出られるよな、恥ずかしくないのかな、でもあれは人前にさらしてはだめだろう、迷惑だもんな」などといいながら結構細かいところまで観察をしている二人である。




 
「あっ、そうだベンソン君にも教えてあげよう」竜人は、ちょっと楽しそうにベンの部屋のドアを申し訳程度に叩いて、勝手に開けて入り、いきなり起こすのだ。なぜかその手には火薬の入ったモデルガンを握っている。いつもの事だが、いきなりの枕元での銃声。
「バーン」「ベンソン、起きろ!」
「ウワァー! なんだ! なんだ!」家中に轟く銃声と悲鳴。ぐっすりと寝ていたところを急に起こされて、何がなんだか解らず動転しているベンを見て楽しそうにしている竜人。
「起きたまえ、ベンソン二等兵,もう朝だぞ」例によって軍隊調になっている。
「あー、ビックリした」オドオドした様子で、まだ寝ぼけていて状況が掴めていない。
「なに、なに、何でソコにいるの、どうしたの?」やっと竜人が居ることに気が付いた。
「ベンソン君、君にいい物を見せてあげよう、ちょっと付いて来給え」冗談ぽい芝居がかった口調で言う。
「エー、なんでぇ」ため息ともつかない力の抜けた声で。
「何があるんだぁ」まだ眠り足らない様子で仕方なく竜人の後を付いて行く。
「なにデカイ音を立てているんだよ、気付かれるだろう」
「あっ、そうか、つい夢中で」
「気を付けろよ」二人は小声で話す。
「いいか、気付かれるな、ソーッと覗いてみろ、面白いものが見られるから」ベンはなにが見られるのかと、ちょっとワクワクしながら覗いてみる。 「どこに、おもしろいモノがあるんだ・・・別に変わったモノはないぞ、隣の洗濯物が干してあるぐらいだぞ」ベンは裏庭をキョロキョロと見渡した。 「エー、いないか」「家の中に入っちゃったんだ、残念、竜崎に見せてやりたかったのに」竜人と龍生は残念そうに裏庭を眺めた。
「何があったんだよ」ベンは納得いかない様子で二人にたずねた。
「まあ、なんて言うか、すごいモノだったよな。言葉では言い表せないよな」
「そうそう、本当にそうだよな、すごいんだこれが」二人はベンをからかい始めた。
「なんて言うか、恐ろしいというか、驚異というか、ちょっとやそっとじゃあ見られないと言うか、見てはいけないモノ、見たら目がつぶれる」 「夢、いい加減な事を言うな! 目なんかつぶれてないだろうが、なんだったんだ、いらつくな、早く教えろ」
「そんな言い方じゃあな、教えてください、だよな」これまた竜人の得意とするところ。
「もういい、そんなもの、どうでもいい、見たくない」部屋に戻ろうと途中まで行く。
「やっぱ、教えて〜」振り返り戻って来る。
「んー、どうしようかな、教えちゃおうかな、やめとこうかな」竜人がじらしていると。
「オイ! また洗濯物を持って出てきたぞ」庭を眺めていた龍生は慌てて隠れる。
「誰が、誰が」ベンが身を乗り出してくる。
「オイ、バカ、見つかってしまうぞ、ソーッとだ」
「エー、何だ、オエー」「オイ、ベンソン我慢しろ、任務を遂行だ」「バカかー、オェー」
 めでたし、めでたしかぁー? 全然めでたくないだろう!
「任務完了! なんてね」


一〇 今日のところはご馳走様につづく

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