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yumemimyou

第二章 ミセス・ロビンソン


・・・一一 未知との遭遇・・・


 夏休みに入ってのこと、ベンは、いつもながらアルバイトに明け暮れている。今回のバイトは泊まりが多いようだ。龍生はといえば八王子の実家に帰っている、少々小遣い稼ぎもあって父の仕事の手伝いである。一人ハウスに残った竜人は、金はないが気楽な日々を過ごしていた。そんなある日のこと・・・・・。
 その日も、例によって裏庭よりあの声が聞こえた。
「オーイ! いるかい、誰かいないのかい!」
 一週間ほど前より夏休みのためハウスに残っているのは竜人だけで、いつもなら沖縄に何週間か帰るのだが今回はたまたま帰らずにハウスに一人で残っているのである。
「んっ! こまったな、俺一人じゃないか、まいったな、全部一人で聞かなきゃならないじゃないか、ゴーンなんだよな、まあ、しかたないか」トランクス一枚で椅子に座ってアイスコーヒーをテーブルの端に置き咥え煙草で、オープンリールを回し音楽を聴いていた竜人は、ひざのところで切ったリーバイスのグリーングレーのGパンを面倒くさそうに履いて上半身は裸のままで、裏庭の戸を開けて覗いた。
 余談ではあるが、彼は小柄ながら健康そうな浅黒く細身で引き締まった筋肉質な体をしている。
「知念、おまえ一人かい、ほかの連中はいないのかい?」そこにはいつもの超ミニのキャミソール姿のミセス・ロビンソンがいた。
「オッ、俺一人だけれど、なんか用」思わず、オエッ! としながらも耐えて返事をした。
「フーン、今、ひまかい」少々態度がいまいち変なミセス・ロビンソンである。
「別に・・・大丈夫だけど」どう返事をしようかと悩みながらこたえる。
「それじゃあ、用事があるからちょっとおいで」
「はあ・・・」と、とまどいながらも、断る理由もないので竜人はついて行き玄関のところで待っていた。





 
「フフッ! 中に入ってちょっと待ってな」と言って、含み笑いをしながら奥の部屋に入っていった。
「なんか、ちょっといやな予感がするな、なんの用なんだ、なにをしているんだ」 彼は本能的な危機感を感じていた。そういったことにはかなり敏感のほうである。
「待たしたね、そんなところにいないで、こっちに上がっておいで」やけにやさしい態度である。ミセス・ロビンソンは、竜人のところまで来て、おかしなそぶりをしながら一言二言、言ったかと思うと、振り返り、部屋の奥に行く途中何か物でも落ちていたのか、突然後ろ向きのまま上半身だけを屈めた。ちょうど深々とお辞儀をしたときのようである。
「エッ!」竜人はとんでもないものを見てしまったのだ。
「いつから履いていなかったのだろう」心の中でつぶやいた。
 その情景は竜人にとってはかなりショックであった。尻と言うよりそのものズバリ、丸見えなのである。これが綺麗なお姉さんであったのなら話は別であったろう。それこそ願ってもない話であろうが、しかし現実にはミセス・ロビンソンなのである。
「ウワッ! きもちわるぅ」思わず心の中で叫んだ。
「見たくないものを、見てはいけないものを見てしまった。ナンタルチアヨ」それを言うならサンタルチアだろう、なんて、一人突っ込みをしている場合ではない。
「ところで、用事ってなに?」気を取り直してたずねてみる。
「なにじゃないよ、見ればわかるだろう」と、さらに大股開き。
「ホラ! 早くしな、男なんだろ、何をすればいいのかぐらいわかるだろう、グズグズしてんじゃないよ、早く来な」
「エッ! 冗談じゃないよ、いくらなんでもミセス・ロビンソンはないだろう、なんとか逃げなくちゃいけないな、なんと言って逃げようか、困ったな」体の中でアドレナリンが急激に増加しているのがわかる。
「あっ、そうだ、ちょっと用事を思い出しちゃったな、それじゃあ、どーもーぉ。」
「んっ! なんだい! 逃げるのかい、なさけないね、男だろ、待ちな!」
「なんでもいいさぁ、ミセス・ロビンソンとやるくらいなら男じゃなくてもいいさぁ、やっぱ男のままのほうがいいかな、ほんとにまいったさぁ、ほんとに逃げられるのかな? 恐ろしいさぁ、かんべんしてくれ〜さぁー?」 〈そんな言い方するかぁ? いくら沖縄なまりだからって、さーが多すぎねーか? まあいいか〉〈よかないだろう〉


一二 隣は何をするヒトぞにつづく

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