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- 夢見妙 -
yumemimyou

第二章 ミセス・ロビンソン


・・・一四  再会・・・


 「今日はもう家のアルバイトもないようだから、たまには八王子で買い物でもするか」駅を出て放射線通り沿いに、靴や衣類を見ながら色々な店を覗きながら歩いていた。
「あっ、そうだ、たまには亮太にでも電話をしてみるか、居るかな」龍生は近くの電話ボックスから滝沢亮太に電話をした。
「あっ、亮太? 龍生だけど、いま時間ある? あっそう、いま? 八王子の放射線のところ、ウン、えっ? おお、いいね、軽く飲めるところがいいな、そう、そうしようか、オウ、それじゃあ、駅の改札の前で待っているよ、はい、それじゃあ後で、バーイ」三十分後に改札口で待ち合わせをした。
「まだチョット時間があるな、駅前の本屋にでも行くか」龍生は駅の近くにある書店に向かった。
「一階の雑誌コーナ―は人がいっぱいだな、三階だったかな、美術書のコーナーは、行ってみるか」エスカレーターは途中の階までだったので、裏口の階段を使って行くことにした。
「ここだ、ジャコメッティかベルメールの立体作品の画集はないかな」目新しい本をはじから手に取り見ていると、後ろの方から何気なく耳に飛びこんできた言葉に気をとられた。
「ちょっと、ちょっと、ユーチン、これ見て、素敵な絵だよね、こんな綺麗な絵が描けたらいいね」
「なに、なに、本当だ、ステキだね、ユーチンも、そのうち絵でも習おうかな、そうだ、今日子も一緒に習いに行こうよ」
「そうね、いっしょに絵の教室にでも行ってみようか」
「それいい、賛成」
「んっ、なんか聞いたことのあるような名だな、まさかな、でもチョット確かめて見るか、そんなことはないと思うけれど」龍生はゆっくりと振り向いてみた。
「あっ、九州のユースホステルの時の人だ、間違いないな、何でこんな所に居るんだ? どうしよう、声をかけたほうが良いのかな」
 あまりにも突然だったので、どうしたら良いのか龍生は考えあぐねていた。
「僕の事なんか忘れているかも知れないしな、ひょっとしたら勘違いかも知れないし、そんな訳ないよな、あの名前であの顔だろ、まちがえる訳ないよな」
「あら? あの人」
「どうしたの、今日子?」
「ほら、三年ほど前、九州のユースで」
「えっ! あっ、そう言えば、あの時の、あの男だ」
「失礼ですけれど、人違いだったらごめんなさい、三年ほど前に九州のユースホステルでご一緒だった、夢見、えーと、夢見龍生さんではないですか?」
「あっ、はい、そうです。あの、今日子さんですよね、竜崎今日子さん、覚えています」
「わたしのことは」
「もちろん、ユーチン」
「あっ、また呼び捨てにした」
「僕もさっき、見かけたときに、そうじゃないかなって思ったんだけれど、もし間違っていたら悪いかなと思って、言い出せなかったんだ。しかし、なんで八王子に? 誰か知り合いでも居るの?」
「いいえ、大学が八王子にあるんです。ですから今八王子に住んでいるんです」
「あっ、そうなんだ。そう言えばあの時、薬科大に入学したって言っていたよね、八王子だったんだ」
「夢見さんはなぜ八王子に?」
「龍生で良いですよ」
「じゃあ、龍ちゃんだ」由美子が口を挟んだ。
「まあ、そうかな、リューチンって言われないでよかった」
「それで、どうして八王子に?」
「あっ、そうでしたね、ユーチンが横から余計な事を言うから」
「ユーチンのせいにするな、リュ―チンは」
「あっ! それは言うな」
「何だか二人とも仲良しみたいね」
「えっ! とんでもない、今日子さん変なこと言わないで下さいよ。あっ、そうだ、それでですね、どうして僕が八王子にいるかって言うと実家が八王子なんです」
「あっ、そうだったんですか、東京だっていう事は知っていたんですけれど」
「次の駅の西八王子なんですけれどね、学校が国立に引っ越して来たので、いまは立川の米軍ハウスに友人三人と共同生活をしているんです。今日は日曜日なので・・・毎週日曜日は父の仕事の手伝いで実家に来ているんです。今日の仕事はもう終わったのでこれから、子供の頃からの友人と御茶でもって言うか軽く飲みに行こうかと待ち合わせをしていたんですけれど、あっ! 言っておくけど男の友達ですから」
「そんな事誰も聞いてないぞー、リューチン」
「んっ!・・・」龍生はユーチンに一瞥を与えた。
「あっ、リューチンが怖い顔した」ユーチンは今日子の後ろに隠れながら言った。
「あっ、そろそろ来る頃だな、そうだ良かったら、ご一緒にどうですか? ちょうどもう一人来る事だし」
「お邪魔じゃありませんか?」
「いえ! とんでもない、久しぶりに会ったのですから、ゆっくり話しましょう」
「ユーチンも行っても良いのかなぁ・・・? リューチン?」
「お願いだからやめてくれよ、その呼び方は、一緒に来てもいいからさ」
「ところで龍チンさんじゃなかった、龍生さん」
「ちょっとちょっと、今日子さんまで、簡便してくださいよ」
「ごめんなさい、ちょっとユーチンに引きずられて、それで、そのお友達とは何処で待ち合わせているのですか?」
「駅の改札口の前です、あっ、そうだ急がなくちゃ、もう来る頃だ」
「急ぎましょう」
 三人は本屋を出て人波の中を掻き分けるように駅へと向かった。
「駅前は本当に人通りが多いな、亮太の奴、もう来ているかもな、急ごう」階段を登り、改札のそばまで来るとそこには日曜日とあって、たくさんの人の群れの中に亮太が立っていた。
「オーイ、亮太、待った?」まわりに居た人たちがその声に、こちらを振り向き、その後亮太の居る方を見た。亮太もその声に気付き慌てて近寄ってきた。
「バカ! 龍生はよ、そんなでかい声出すな、恥ずかしいだろ」
「わりい、わりい、それはともかく、遅くなって、ごめんな」
「何してたんだ、十分遅れだぞ、まあいいけど」
「それがさ、まだ時間があるかと思って本屋に入って、美術書のコーナーを見ていたら、なんか聞き覚えのある声と名前が後ろから聞こえたから、振り向くと、亮太にも以前話した事あるよな、九州での下着泥棒事件」
「ああ、覚えている、九州のユースで龍生が下着を盗んだとか、盗まないとかって言っていた話だろ。そうだ、まだ他にも恐ろしい事や面白い事が色々とあったって言っていたよな」
「またこんど話すよ、それでさ、ここに居る二人の女性がその時知り合った人達で」
「新井由美子です。みんなにユーチンて呼ばれています。よろしく」
「ユーチンは、新井由美子って言うのか、知らなかったな、それってどっかで聞いたような名じゃないか、ちょっとニアミスしてるけど、それじゃあ、ユーチンじゃなくて、ユーミンじゃないか」
「そう言われると思って教えなかったんだよ、特にリューチンには」
「あっ、そう、まあいいや、それからこちらが」
「あっ、始めまして、わたしは竜崎今日子と言います。薬科大に通っています」
「薬科大ですか、それじゃあ将来は薬剤師ですね。あっ、俺はじゃない、私は、滝沢亮太と言います」
「私っていう、柄かよ」
「うるさいな、龍生は、それより、こんな所で立ち話をしていても仕方ないな、龍生どうするんだ?」
「そろそろ四時半になるのか、ちょっと軽く飲んで食べられるところがいいかな、まだ時間がちょっと早いかな」
「まだちょっと、食事には早いようですね、少し商店街でも見て歩いていればちょうど良い時間になるんじゃないですか?」
「今日子さん、それ、いいですね、そうしましょう。それじゃあ、銀ブラならぬ八ブラでもしますか」
「龍生、お前、それ寒いぞ」
「そうだそうだ、寒いぞ、ゾクゾクするぞ、リューチン」
「ユーチン、そのリューチンて言うの止めてくれ」
「ユーチンさん、もっと言って良いよ、俺が許す」
「亮太、なに勝手なことを言っているんだよ、お前等、変に気が合っているじゃないか」
「えっ、そんなことは無いよね、ユーチンさん? 龍生、変な事言うなよ」
「別に変な事じゃないぞ、亮チン」ユーチンが言う。
「オイオイ俺までもか?」
「亮太、耐えるんだ」
「何を言っているんだ、龍生は」
「皆さんそれくらいでソロソロ出かけませんか?」
「あっ、ごめんなさい今日子さん。そうですね、行きましょうか」
 四人は八王子の商店街を見てまわった後、駅前の放射線商店街の中にあるビルの地下に続く階段を降りて行くと、チョットおしゃれなスナックレストランと言った風な、若者向きの店があった。
 店の中は、四、五人が座るとちょうど良いぐらいの丸テーブルが、たくさん点在していた。
「結構客入っているね、照明も落としてあって、落ち着いた感じだよね、内装のデザインもチョット変わっていて、パイプとか、わざと剥き出しにして、なんか、地下の秘密基地っていった感じだよね、若者向けだな、八王子にも、こういった店があったんだ」
「龍生、あまり八王子をバカにするなよ」
「バカにする訳ないじゃないか、だって僕の生まれ育った所なんだから」
「でも、こういった感じの店、最近多いわね、吉祥寺に行くと良くあるわよ」
「今日子さん、良く吉祥寺に行くの?」
「ユーチンも良く行くよ」
「あっそう」
「ユーチンと一緒に良く買い物や喫茶店に行くのよね」
「そうなんだ? ところで今度、立川のハウスの方に遊びに来ませんか?」
「ええ、ちょっと面白そうなところですね、是非、近いうちにユーチンと一緒にお邪魔します。ねーぇ、ユーチン」
「行く、行く、ユーチンも。亮チンも一緒に行こう」
「ちょっと、その亮チンは、やめてくれないかな、一緒に行くのは良いけれど」
「亮チン・・・? いいと思うんだけれどもな、それじゃあさ、どうせ行くのなら今決めちゃった方が良いよ」
「ユーチンは、気が早いな、まあいいや、それじゃあ来週の日曜日はどう」
「龍生さんは、土、日は実家の手伝いなんでしょ?」
「ことわっておけば、日曜日は大丈夫なんです。もし用事が有っても、夕方までにはハウスに戻れますから、夕食を一緒に食べる事は出来ますよ」
「ハイ、そういうことで決めましょう、それでは来週の日曜日、五時に、待ち合わせ場所は立川駅北口、改札を出たところで、という事でどうでしょうか?」
「亮太、なに勝手にまとめているんだよ」
「トットと決めた方がいいだろ、こうゆうことはさ」
「それより、折角ですから乾杯でもしませんか?」
「そうですね、今日子さん、それでは再会とこれからも宜しくという事で・・・なにを宜しくかはわかりませんが、まずはカンパーイ!」「カンパーイ!」
「龍生だけ宜しくは無いだろ、滝沢亮太も宜しく」
「ユーチンもね」
皆、八王子近辺とあって、その日は遅くまで楽しく過ごした。




 
そして一週間後の日曜日の夕方。
「先週はどうも、ほんと楽しかったです・・・まだ・・龍生は来ていないみたいですね」亮太は立川の北口の改札を出ながら、今日子と由美子に挨拶をした。
「実家の御手伝いで少し遅くなるのかもしれませんね」
「でもまだ五時になったばかりですし、来ると思いますが、十五分ほど待ってみましょうか」
「亮チン、もう十五分たったぞ」
「亮チンかぁ、ユーチンわかったよ、それじゃあ、チョット電話をしてみますね・・・・・もしもし、滝沢亮太ですが、あっどうも、あのぉ、龍生は居りますか? あっそうですか、ハイ、わかりました、それでは、ハイ」
「どうでしたか?」今日子が尋ねた。
「少し前に出かけたって言っていたから、もう直来るんじゃないかな」
「あっ、来た、来た、リュウチンが来たよ!」
「よう、遅かったな、遅刻だぞ」
「チョットだけね、ゴメーン、早くに来てたの?」
「いえ、五時十分前ぐらいに来たんです」
「でも、もう三十分は待ってたぞ、リュウチン」
「ゴメン、ゴメン、後でご馳走するからさ、じゃあ、行こうか」
「このガスタンク大きいよね、いつも電車からは見ていたんだけど、近くで見ると本当に大きいや」由美子はガスタンクを見上げた。
「本当ね・・・ハウスはこの近くなんですか?」
「踏切を渡って、三〇〇mほど線路沿いの細い道を行ったところです、もう直です」
「俺はハウスに行くのは三度目かな」
「そうだな、亮太はあまり来ないよな、あっ、ここです」
「赤くてかわいらしい柵ですね、お花がいっぱい咲いていて、楽しそう」今日子は思わず微笑んだ。
「いいなぁ、庭付きの一軒家」
「ほんと、うらやましいよね・・・ユーチン! あたし達もこういう所を借りればよかったね」
「ホント、ホント」チャリン、チャリン、ドアベルが鳴った。
「中へ入ってください・・・どうぞ、どうぞ」四人は取り敢えずプレイルームを通り抜け龍生の部屋に入った。
「絵がいっぱいありますね、この大きい絵は何号です?」
「これはP八十号ですね。まだ小さい方だけど」
「もっと大きい絵を描くんですか? お金もかかって大変ね。部屋がいっぱいあっていいですね、他の方は?」
「自分の部屋にいるんじゃないかな、あとで皆で食事をしましょう」
「龍生、結構がんばっているみたいだな、俺もがんばろう」
「ここの中には何があるんだ。ユーチン覗いちゃうよ、ウッ! 臭い、変な臭いがするぞ、酢酸の臭いだ」
「そこは、写真の現像のための暗室だよ」
「どうりで・・・他の部屋も見たいな」
「それじゃあ、他の連中にも声をかけてくるよ、プレイルームに行ってていいよ」
「プレイルーム? 何をするところなの?」
「中央のリビングルームの事だよ、プレイルームって呼んでいるだけさ」
「あっ、そうなの」
「オーイ! ジーン、いるか? 竜崎! ちょっと、出て来いよ、みんな来たから食事にしないか?」
「リュウちゃん、お友達来たのか?」
「お邪魔しています」
「ああ、どうぞ、お邪魔しちゃって下さい」
「お邪魔しちゃって下さいだって、この人面白いね」
「えっ、面白かった、フツウサ、なんてね」
「ユーチン、この人、気に入った」
「ジーンは、エライのに気に入られたな」
「面白い人、名前はなんて言うのかな?」
「俺? 知念竜人、リュウちゃんはジーンって呼ぶけどさ」
「それじゃあ、タッちょんて呼ぼう」
「タッちょん? なんだそりゃ?」
「タッちょん? アッハッハッハ、諦めろ、もう遅い」
「なに笑ってんだよリュウちゃんは?」
「クックックック、もうだめ、アッハッハッハ」亮太も堪えきれなかった。
「クス、クス、クス、プハ、ハハハァ、お腹痛い」
「今日子まで、そんなみんなで笑ったら、わるいよ、タッちょんに」
「ユーチンが可笑しなことを言うからだよ」
「なにがだよ、リュ―チンは」 「お前、皆にチンとか、ちょんとかつけるなよ」
「ヨウ、なんか楽しそうだな」
「竜崎、やっと出てきたか」
「ところでタッちょんて、なんの事だ」
「アッハッハッハ、笑わせるなよ、竜崎は」
「先日言ってらした、竜崎さんってこの方ですか? どうも、私も竜崎と申します、よろしく」
「あっ、どうも、同じですか、奇遇ですね。ワシは竜崎勉です。お名前のほうは?」
「今日子です」
「今日子さんですか、よろしく、ワシのことは、ベンでいいですから」
「ベンさんですね、背がお高いんですね」
「いや、それ程でもないんです、百八十ほどですから、この二人が小さいから、大きく見えるだけです」
「オイ、コラ! なにが小さいだよ、ベンソン」
「それよか、食事の用意をしないか? ジーン、何か作ってくれないか? ジーンは料理が上手なんだ」
「そうなんだ、すごいぞタッちょん。そうだユーチンはまだ自己紹介をしてないぞ」
「いいんじゃないか、もう。聞かなくてもユーチンだし」
「なんでだよ、リューチンは・・・もういいよ」
「亮太さんでしたよね、以前何度かあった事がありますよね」
「ええ、私も覚えています。ベンさんでしたよね」
「それじゃあ、まずは一昨日買出しに行ってビールやワインを買っておいたから、乾杯でもするかな」
「いいねぇ、夢、早くやろうよ、乾杯を」
「よし、みんなビールを注いだかな? それでは、これからもよろしくという事で、カンパーイ!」「カンパーイ」
「うまい!」
歌やら、音楽やらと、その夜もみんな楽しく騒いだのであった。
「もう四時半だよ、楽しいと、時間の過ぎるのも早いよな・・・龍生、俺、もう少したったら帰るよ」
「うん? 亮太そろそろ帰るのか?」
「そろそろ、始発が走り出しますね、それでは、私も帰ります」
「ユーチンも一緒に帰るぞ!」
「あと一ヶ月とちょっとで十二月だし、この次はクリスマスパーティーをしようか?」
「リュウちゃんいいこと言うねぇ、やろうぜ、クリスマスパーティー、他の連中も呼んで、盛大にやるか?」
「必ず来ます。連絡して下さいね」
「ユーチンも来るぞ! タッちょん、また楽しくやろう」
「まあ、そうな、いんじゃない、又な、やろうな、ユーチン」
「そう言えば、アリスは何処にいるんだ、散歩かな、まあいいか」
「どうしたのよ、龍生」龍生の妙な様子に亮太が尋ねた。
「いや、アリスがさ」
「アリスって?・・・・・ああ、あの猫か、そう言えば、見かけないなぁ」
「何処か遊びに行ってんだろ、気が向けば帰ってくるさ」竜人が楽観的に言う。
「そういえば、最近時々いなくなるんだよな」ベンも心配そうである。
「竜崎? 土、日アリスはいた?」
「そう言えばいなかったな」
「まあ、気にしても、しょうがないか、それじゃあ、気を付けて帰れよ、また十二月にね、バイバイ」
「それでは、さようなら、また来ます」
「またね、バイバイ」
「さあ寝るか、片付けは後でいいよな、それじゃあ、お休み」
「おう、ワシも寝よ」「俺も寝るかな、じゃあねぇ、おやすみぃー」
「バタン」


一五 さすらいのアリス

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